第8話 生きた剣士
窓の下に、複数の学生たちが行き交う姿が見えた。
若い。
中学、高校と規律を保った制服を忘れ、思い思いのファッショに身を包み、髪型を楽しみ、お気に入りのカバンにノートと教科書を詰めて勉学に励む。その若者たちは大学生であった。
その風景を見て、佐伯公恵は懐かしく思った。自分も、この大学で勉学に励んでいたものだと。
勉強は確かに大変だった。試験前にはコーヒーをがぶ飲みし、寝落ちしようもなら友達に雪山登山で遭難したかのごとく頬を打って目を覚まさせてもらい、何本ものポールペンをインク切れにして勉学に励んだ。
でも、それを引き換えにしても楽しかったのは、キャンパスライフという学生でありながら大人と同じ自由をおうかできたことだ。
卒業時に思った。
家族に感謝。
友人に感謝。
恩師に感謝。
決して自分一人の力で卒業できたのではない。みんなの支えがあって自分は医師になれたのだ。目標である医師になれたが、そこからが始まりでもあったのだが。
心の何処かで、あの頃に戻りたいと思うと、自分を嗤って部屋にある机に戻った。
部屋には紙の臭気があった。
いや、紙というよりは、それに使われるインクの臭いと湿度によって発生したカビの臭いかも知れない。吸い込むと鼻腔内が乾いていく感覚があり、それと共に微かの不快を憶える。
公恵は軽い刺激に鼻を摘んで、くしゃみを抑制した。
だが、それも最初だけだ。公恵は一枚の写真を傍らに、様々な資料を照らし合わせるように開いていた。
その資料は、年端もいかぬ子供ならずとも、大の大人でも見せれば表情を蒼白にし、目を背けたくなるものばかりであった。
ある写真は、腹部を刺された傷。
またある写真は、肩から腕にかけて切られた傷。
また別の写真は、顎下が切り裂かれた傷。
いずれも肉が裂かれ血に濡れた人の写真であった。
死体なのは疑いようもない。見ているだけで血の生臭さに加え、吐き気を催す腐敗臭を自身の中に作り出しそうになる。
公恵は刑事たちが患者の事情聴取に来た後日、母校の医大に足を運ぶと、教えを受けた法医学部を尋ねたのだ。
医学部を卒業するには将来法医学に携わるに関係なく法医学も一通り学ぶことになる。公恵が目指したのは患者と接する臨床医であり、法医学は専門外であったが、思うものがあり久方に母校に行くことにしたのだ。
公恵が神妙な面持ちで、持ち込んだ写真を手に溜息が漏れた。すると白衣を着た初老の男性がドアを開け入って来たところであった。年齢にして60代くらい。白くなった髪と深い皺は正に年老いた証拠であったが、その風貌は若く老いというものを感じさせなかった。
「随分と熱心じゃないか」
年老いた男性は、公恵に声をかけた。
「武内教授。資料の方を使わせて頂いています」
公恵は起立し恩師に礼を行ったが、武内教授は好々爺とした様子で公恵に着席を促し、窓から見える風景に目を細めた。
初老の男性・
「立派になったものだ。君が、ここで勉学に励んでいたことが去年か一昨年のように思えるが。私も歳を取ったものだ」
勲は薄くなった頭を撫でて、年齢を感じた。
「そんな。ようやく医師として歩き始めたと言ったところです」
公恵はへりくだった。
勲は、教え子が広げている写真に目を伏せ、ぽつりと言った。
「写真を眺めて思いにふけるなら、旅行が良いと思うね」
公恵は、表情に陰りを落とした。
「そうだと良いんですけどね。病やケガに苦しむ人を診なければならない日々は大変です。時々、何もかも忘れて、どこか遠い所へ旅してみたいと思ったこともありますが、そうはいきませんよ」
それを聞くと、勲は公恵の気持ちを察したように、表情を緩ませる。
「やはり、大人になったものだ」
勲は言いつつ、公恵が持っていた写真を、よく見た。勲の表情が、秋に日が陰るように落ちる。
いや、夜が訪れたかのように表情が暗く強張る。
「……これは、君の患者かね」
「……はい。私が、この女性を介抱すると共に手術も担当しました。事件性がある傷なので、警察に提出することを考え、手術後に撮ったものです」
公恵の手にある写真には、背を無残に切られた女性の背があった。手元にあるカルテの写しに、公恵は写真を置いた。
何針にも及ぶ縫合痕が痛々しい。
「あの教授」
公恵は訊いた。良い機会であった。検死記録にある写真を眺め、自信の手で志水洋美と同様の傷を探していたのだが、時間ばかりが過ぎていたのだ。
本当はそうではなかったのだが、自信の中に湧いた不安を否定して欲しくて公恵は尋ねた。
監察医に。
「教授は、この傷をどう見られます」
「……どう。とは?」
勲は尋ねた。
「凶器は何か、ということです」
公恵の脳裏に青年の持つ刃が光った。
自身の中にある一番の可能性を否定するために、公恵は母校の法医学教室を尋ねたのだ。
過去に起こった刃物による殺人事件の検死記録と照らし合わせ、傷の鋭利さ長さ深さ。
そして、傷の様子。
公恵が過去の検死ファイルを見る限り、志水洋美が負った傷に似たものはあっても、似て非なるものであり、該当する検死ファイルを見つけられないでいた。
「傷の原因となる凶器を特定するのは、医師の仕事では無いと思うが……」
勲は公恵の医師としての仕事の範囲を越えている調査に、いささかな疑問を感じた。
公恵は言葉に詰まる。
「それは……。患者の治療方針の一貫です」
答える公恵の様子に勲は訝しがるものの、あえて追求は行わなかった。
「見せてくれんか」
手を差し出す勲に、公恵は写真を渡す。勲は写真を診て、目を細めた。
「傷の長さと深さはどれくらいだ」
監察医として業務的になった勲の問に、公恵はカルテから抜粋したメモを取り出し答える。
「はい。長さは約37cm。深いところで約3cm。傷は右肩が深く左脇腹に行くに従って浅くなっています。当初は脊椎が損傷しているのではと思いましたが、幸運にも絶妙な位置で止まっていました」
公恵はメモ見て、勲の様子を見る。
「すると、右肩から切られた。ということだろう。女性が背を向けているところを、後ろからこう……」
勲は右手を袈裟がけに振った。
それは公恵の意見と一致した。
「……それで、どんな凶器が使われたと思います」
公恵は胸につかえているものを感じながら訊いた。検死のプロである医師の勘を聞きたかったのだ。自分の中で生じている推測と、恩師の答えが合わないことを願って。
勲は考えてから口にした。
「率直な意見を言うなら。日本刀だな」
その言葉に、公恵は背が震えた。青年の手にする凶器が過ぎった。
「ナイフやカッターという見方もできるが……」
勲は言葉に詰まった。
公恵は、勲の顔を
「すまない。今から言う言葉は、あくまでも客観的な意見を述べるにあたっての言葉であって、決して犯人を評価するものではないと思ってくれるか」
「はい。もちろんです」
公恵の答えを聞くと、勲は写真に目を落として口にした。小さな呟きで。
「美しいな」
と。
分かっていても、公恵は脳が萎縮する感情の沸騰を憶えた。
その言葉は被害者や、その家族だけでなく手術を担当した公恵とって激怒させるものであった。
勲の謝りが先になければ、恩師と言えど公恵は明らかに食って掛かっていたが、勲の意見に、公恵は同意した。
「……あの。私も教授の意見に同感です。こちらにある刃物による死体の傷を見ましたが、着衣や下着を含め、こんなにも長く鮮やかな傷口はありません」
「そうだな。切れると言っても力任せに振り回した刃によって、金ノコで切ったよう
公恵の否定していきたいものは、確信へと導かれていく。
「では、犯人は剣道の名人でしょうか?」
公恵のその問いに、勲は意外なものでも聞いた顔をした。
「佐伯君。剣道では人は斬れんよ」
「え? でも、剣道とは剣を使うものでは……」
公恵の疑問に、勲は言った。
「これでも若い頃は剣道をしていたんだ。行っていた本人が言うんだから間違いはないよ。
まず、剣道で使う竹刀という物を考えれば真剣とは別物だ。竹刀は軽く丸くて刃が無いのに対し、真剣は重く反りがあり片刃だ。その竹刀で試合を行う訳だが、剣道はフットワークが軽く、腰は伸び、足は浮いていたりする。
だが、古流剣術は違う」
勲は重く言った。
「あの。古流剣術とは何ですか?」
公恵は、知らないことから申し訳なく訊いた。剣道の名前は知っていても、技の一つも知らない身としては、勲の言うものが何か分からなかった。
「古流剣術とは、明治時代以前にあった競技化される前の剣のことだよ。乱世に生き戦国の修羅場を駆け抜けた個々の武人達によって生み出され、発達を遂げた武芸諸般の王座とも言える武術だ。その術技を高度化し理論を伴わせて流派とし、戦国期から江戸初期にかけて完成されていった」
「えっと……。時代劇とかで聞いたことのある、一刀流とか新陰流とかですか?」
「そう。そう言った剣術だ。古流剣術では、足腰を安定させ、腕で斬るのではなく
分かるかな、真剣を使うには真剣の技術がある。日本刀と聞くと、凄まじい斬れ味を持っていると思うが、それも刃筋が立たなくては意味がないんだ」
「教授。刃筋とは何ですか?」
公恵は訊いた。
「刃筋とは、刃の向きを斬り付ける方向に正しく向けることだ。これが正しく向いていないと、真剣であっても斬れない。例え力任せに斬り込んだとしても、刃は途中で止まってしまうばかりか、刃こぼれすることもある。
実際、ある武道館の落成式で剣道の高段者数人が、真剣で巻藁を試し斬りにするイベントがあった。だが、その場に居た剣道家は誰も斬ることができなかったそうだ。全員が刃筋を立てられなかったためだ」
その話に、公恵は軽いカルチャーショックを受けた顔をした。自分が思い込んでいた常識がまったく通じなかった。
「……でも教授。斬る対象が物ではなく、人間なら斬り殺すこともできるのでは?」
勲は、それを聞くと、少し考えて口にした。
「刀を刃の付いた鉄の棒と考えれば、いたずらに相手の肉を叩き、浅い切創を無数に作りながら呆れる程の時間を使って撲殺することはできるだろう。
だが、一刀の下に斬り殺すことはできん」
勲は続けて訊いた。
「佐伯君は、二・二六事件を知っているかな」
「え? あの……学生の頃に名前だけは聞いたことがありますが……。昭和の頃にあったような……。すみません歴史は苦手なんです」
公恵は日本史・世界史と中学、高校と成績はあまり良い方ではなく、それに伴って授業も上の空で聞いていたことがある。興味を持てなく暇なので、教科書にある偉人をもっと偉くしてあげようと、ついヒゲを描いて遊んでいたら先生に見つかり、クラスのみんなに笑われるのと同時に、ちょっと痛い拳骨をもらった苦い経験を思い出した。
「二・二六事件とは、昭和一一年二月二六日早朝、武力による国内改革を
しかし、これ以前に導火線となる事件が昭和一〇年八月一二日にあった。相澤中佐事件だ」
「相澤中佐事件?」
公恵は、歴史の授業でも聞いたことのない事件に頭を捻った。
「これは、陸軍省の一室で皇道派の相澤三郎・陸軍中佐が、統制派の永田鉄山・少将を殺害した事件だよ。相澤中佐は軍教育訓練の総本山、元陸軍戸山学校の剣術教官で、剣道五段・銃剣道の達人だった。剣道五段というのは、当時の最高段位であり、現在の八段か九段の高段位に匹敵する達人的な腕だ。更に
また、相澤中佐の使っていた刀は、昭和一三年以降の半太刀造りの軍刀ではなく、騎兵用のサーベル造りの軍刀であったとしても、儀礼用の銅にメッキをしたサーベルではなく、刀身は日本刀を仕込んでいた。従って武器としては最高のものだった。
だが、丸腰で夏服の永田少将に正対するなり右袈裟に斬り付けたが一刀の下に斬殺できなかった。この時与えた傷の深さは1cm。そのため、相澤中佐は左手で軍刀の中央部を握り、銃剣術の構えで少将の胸を刺して絶命させた。
相澤中佐は左指四本に骨まで達する傷を負い、
《剣道には自信があったが、自分自身で手を斬るとは不覚であった》
と後に語っている。
翌年の七月三日に相澤中佐は代々木で処刑されたが、その前に獄中で、
《戸山学校剣術教官として斬り損じたことは恥ずかしい》
と語った。
つまり、どういう意味か分かるかな」
勲に問われ、公恵は答えが分かった。
「それは、つまり……。剣道の達人でも人は斬れなかった。ということですね」
勲は頷いた。
公恵は疲れたように、椅子にもたれた。
「知らなかった。真剣を持てば誰でもと思っていたのに……」
「それはフィクションの世界だ。今話した相澤中佐が良い例だ。刀を手にした達人が操作してそうであったのだから、武術経験のない者が伝説の名剣を手にしたからと言って、一撃の下に斬り据えて相手を即死させるような一刀は、不可能と言わなければならない。
例えばF1だ。レースを制するのは、高速で疾走るマシンの性能がなければトップに立つことはできん。だからと言って、若葉マークの初心者をいきなりF1マシンに乗せても、まったく役に立たないようなものだ。アクセルを踏むだけで優勝出来るなら、誰でもプロになれる」
勲の例えに、公恵は納得した。
刀を、F1マシンに。
使い手を、ドライバーに。
想像しやすいものに置き換えてくれた。どんなに刀の斬れ味が良くても、ただの力自慢では意味がない。扱うには、それ相応の技量が必要なのだ。
勲は続けた。
「現在、剣道を行う者を《剣士》と称するが、古流剣術では、竹刀を上手に使える人を《竹士》と呼び、次いで木刀稽古に秀でた人を《木士》、真剣を自在に使いこなす人を《剣士》と呼んだ。
術技の練達が進めば竹刀や木刀といえども、真剣と何ら変わらない境地に至るそうだが、それぞれ扱う物によって呼び名が違うことは、扱うものがいかに異なるかを隔てたものだったと言えるだろう」
「なるほど。それにしても、武内教授がこんなにも剣についてご存知とは意外でした」
「言っただろ、若い頃は剣道をしていたと。今でも楽しみは、時代劇と時代小説だよ。
だが、最近の時代劇はつまらん。今の若い役者はイケメンだかツケメンだが知らないが、モヤシのようにヒョロヒョロしていてダメだな。配役で達人と称されても、一見して身構えてしまうような気迫を感じん」
恩師の知られざる趣味に、公恵は意外性を感じた。
そこで、公恵は思った。
「では、教授。現代には真剣を扱える人間は居ないのでしょうか」
「いや。現代でも真剣を使える人達は居る。抜刀道だ」
「抜刀道?」
公恵は訊き返す。
「抜刀道とは、昭和五二年に中村泰三郎によって創設された真剣で物を斬る武道だ。真剣で斬ると言う内容に、聞いてみれば単純かも知れないが、聞くほど単純ではない。斬るには斬るだけの心得が必要で、間合い、刃筋、角度、円形線、手の内、刀の止め方・流し方、歩幅、柄握り、心構え等色々だ」
「……では、犯人は抜刀道の経験者でしょうか?」
考えて口にした公恵の質問に、勲は唸った。
「どうだろうな。その可能性は否定できないが、抜刀道は固定された物を斬る武道であって、動いている人間を斬るものではない。
何よりも、物と人間とでは材質そのものが異なる。例を挙げれば叩きつけるような斬り方は、人体の堅い部位や骨を断ち斬ることができるが、人体の全てがその斬り方では通用しない」
「え。どうしてですか? 骨が斬れるなら、その斬り方で人体のあらゆる部位を斬れるのでは」
思ったままの疑問を、公恵は口にした。
「そうでもないんだ。脂肪がついた腹などの柔らかい部位では、叩きつけるような斬り方ではうまく斬れんのだよ。こうした部位では、刀の先・切先を滑らせて引きながら、鋭く刃を使うことで肉を斬り裂ける。人間を斬るには、刃筋だけでなく斬る部位によって刀の使い方そのものが違う。人間には、人間の斬り方というものがあるんだ。
これに関連したことを言えば、一刀流の開祖・伊藤一刀斎の弟子に小野善鬼という男が居たが、一刀斎が教えたのはたった一つ。《斬り覚えよ》それだけだ」
公恵は、その言葉に寒気がした。
「……それは。そのままの意味ですか」
「そうだ。善鬼は各地を走り回り、盗賊・悪党を斬り回った。人を斬って、剣というものが分かってきたそうだ。習うより馴れろ。正に究極の実戦稽古だ」
勲は言葉を切って、写真を見た。
「男性と異なり女性特有のいみを帯びた体型は皮下脂肪によるものだが、女性の肉体は、脂肪が多く柔らかいので斬るのは難しいと思う。
もし、これが偶然の結果でなければ……。女性を、人を斬るという点は憎悪すべきだが、技だけを見るならこの傷を付けた人間は、まさに剣士だな。現代において人を斬る技というものは不要となり、人を斬る剣士は幕末や明治の内戦を最後にすでに絶滅したと言って良いだろう。
化石として発見される生物や植物は現代では絶滅してしまっている存在だが、現在でもほとんど姿を変えることなく生息している生物を《生きた化石》と呼ぶが、化石ちなんで言うなら、この傷をつけた者は《生きた剣士》とでも言うべきかも知れないな」
公恵は、写真の傷を見た。その鋭利な傷を。
脳裏にあの夜の出来事が過る。
牙を生やした男と、一切の怯みなく刀を扱った青年の姿を。
「生きた剣士……」
その言葉を公恵は口にし自分の思いとは裏腹に、状況から判断して志水洋美の背を斬ったのは青年しか居なという現実を打ちのめされた。あの夜何が起こっていたのか真相は分からないが、青年の刀が奪われて志水洋美が斬られたという可能性も考えた。
だが、勲の話を聞く限り剣士でなかれば刀剣は使えない。あの牙を生やした男は怪しい。公恵は剣に関する知識は無いが、勲の談義を聞き、あの男が青年の刀を一時的に奪って使ったとしても、剣を使えるという剣士としても威厳を感じなかった。
対して青年はどうだろう。
哀しいことに、剣士としての威厳を有り有りと感じずには居られなかった。男と戦った際の挌技、柄当てによる一撃。剣道のルールは知らないが、おそらくそんな技は使われていない。古流剣術を学び実践してきたのだろう。男が逃走した後の、青年の刀の扱い、納刀。素人である公恵から見ても、荘厳な滝の飛沫に触れたかのように身が引き締まるものを感じた。
剣士
その意味するものを由来や説明を公恵は口にすることはできなかったが、あの青年を指して《剣士》であると言い切る自信が公恵にはある。
しかし……。
直感で通り魔かも知れない人物のことを警察に証言しなかった。
刀による第二、第三の被害者が続くかも知れない。
青年が犯人ではないという確証が欲しくて母校の法医学教室を尋ねたのに、公恵が得られた結果は真逆のことであった。
何かが、公恵の身体に伸し掛かる。
重く。
辛く。
難く。
肩が落ちる程の何かとは信じていたものに裏切られたという、悔しさよりも失意だった。
女性を、志水洋美を斬ったのは、青年だったことに。
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