第16話 一言陛下を貶めねば気が済まない兄様

「そういえば第一皇子と第三皇子が失脚したと聞き及んでおりますが、そのお二方の婚約者の方はいらっしゃいましたよね?シューレウス殿下としてはその方と婚約を結んだ方が良かったのではありませんか?」


 そうシューを見るとなんと舌までを出してものすごく嫌そうな顔をしている。


「無理、あいつら、無理」


「シュー!あいつらとは何ですか!レイア様もリオン様もご立派な令嬢ですよ!」


「ぜってーいやだ!あいつら今まで俺を散々身分が低い身分が低い、視界に入るのも不快って扇で追っ払ってたのに、俺が王太子に決まった途端「シューレウス様ァ~」だぞ!あああああ、思い出しても鳥肌が!」


 ばっと袖をめくると、本当に皮膚がブツブツしている。よっぽど酷い事言われたのかしら……?


「大体俺は元々王位継承権なんて破棄する予定だったんだ。ローザンヌ様がどうしてもって言うからまだ持ってたけど、さっさと市井に降りるか駄目ならグラフィル様の所にお邪魔するつもりだったのに!」


「まあ……ローザンヌ様の読みが当たってしまったんだけれどもね。流石先読みの魔女の血を引く御方だよ。私も推薦した甲斐があったと言うか、何というか……」


 あーあ!と、グラフィル兄様まで伸びてしまったわ。その様子をアンナ様はクスクス笑って見ていらっしゃるから、いつもの事、なんでしょうか?


「でもよ、正直に言って欲しい。ユーティア、本当に俺の婚約者で良い?俺、こんなんだし、きっと苦労させちゃうと思う。王太子なんて名前が付いてるけど、ぶっちゃけユーティアの家で庭師やってた時の方が楽しかった」


 そう言えば窓から見た庭でシューは楽しそうに枝の剪定をしていた。そして目が合うと、いい笑顔で手を振ってくれたっけ。


「何を今更言っているんですか、シュー。ユーティアはもう正式な貴方の婚約者ですよ。阿呆でボンクラだとは言え、皇帝陛下がお認めになられたんですから」


 グラフィル兄様は何か一言陛下を貶め無ければ気が済まないご様子ですね。


「とは言え、私の可愛い妹が「シューなんて嫌い!プン!」と、言えばどうとでもしようはあるんですけどね?フフフ」


「うわっ!フィル様怖え!」


「本当ね、グラフィル様が本気を出したら帝国は終わってしまうわ」


 それでも笑顔だから、本当に仲が良いんだわ。


「ホント、フィル様が王様になっちゃえばいいのに」


「グラフの末の息子は王には成らぬ、と言う預言がありますからね。リリアス家は常に臣下の身なんですよ」


 自重気味に笑うグラフィル兄様。リリアス家は歴史がある分、色々な制約があるのでしょう。


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