第12話 二人がかりの叱責に顔を青くするしかなかった。

「ラング殿!ユーティア様は!レディ・ユーティアはおられますか!」


 朝早くの非常識な訪問。普通なら断りを入れる所だが、尋ねて来た人が人だけに、対応せざるを得なかった。


「こ、これは第二王子のイセルバート様と宰相キリル様。このような朝早くからいかが致しましたかな?」


「申し訳ないとは思いましたが、この一件は速やかに処置すべきことなので!ユーティア様はいずこか?」


 ラング侯爵の口は咄嗟に真実を告げる事が出来なかった。それほどまでに二人の様子は切迫していたからだ。


「ユ、ユーティアはまだ寝ておりますが……」


 その言葉に二人はほっと安堵のため息をついてから、話をつづけた。


「では申し訳ないが起こしていただきたい。急ぎユーティア様に確認したいことがございます」


「あ、え……分かりました……」


 しかし、ユーティアはもはやこの家にはいない……。そこへ第二王子が来たというメイドの話を聞きつけて、ミーアが足早に現れた。


「おはようございます、王子様、宰相様。私がラング家のミーアでございます」


 お世辞にも美しいとは言えない礼をするが、二人は一瞥しただけだった。


「ミーアでございます!」


 聞こえなかったのかと、ミーアはもう一度礼をするが、二人の来客は不快感を露わにした。


「ラング侯爵よ、この娘を下げてくれ」


「まったくこの女のお陰で大混乱ですよ」


「え……一体何が……?」


 訳が分からず、ラング侯爵が第二王子と宰相を見ると、二人とも相当腹に据えかねているようだ。


「ラング殿、貴方にも処罰は下りますからね?まったくとんでもない娘を迎え入れたものですね!その娘と第一王子の醜聞の責任は取っていただきますよ、まったく。これでユーティア様に愛想でも尽かされたらいかがなさるおつもりだったのですか!」


「全くです。ユーティア様の価値を一番分かっていらっしゃるラング殿がそのように甘い態度を取るからいけないのですよ、お陰で撤回をよしとしない兄上は廃嫡、私が王太子となりました。その娘も娘なら、兄上も兄上だ!ユーティア様がおられるからこの国は安泰なのに!」


 二人の剣幕にラング侯爵は目を白黒させる。ユーティアの価値……?!そんな物はあるはずがないのだが!?

 そして路傍の石より無価値な扱いをされたミーアが怒りで大声を張り上げる。


「な、なによ、なによ!ユーティア!ユーティアって!あの女はもうこの家には居ないわよ!家族の縁も切ってどっか行っちゃったわよ!!」


「なんだと?!」


「本当か!ラング殿!!嘘であろう!?」


 がたり!と二人は勢いよく立ち上がった。


「え?!いや、そのぅ……あのぅ……」


 勢いに呑まれ、オロオロする侯爵を他所に、ミーアの金切声は続く。


「いないわよ!そんな女!昨日のうちに出てったわよ!帝国の馬車に乗ってね!」


「なっ?!」


 イセルバートも宰相も顔色と声を失った。


「だ、誰か!誰か!足止めだ!ユーティア様を国外へだしてはならん!」


「ま、まさかとは思うが、ラング殿よ、グラフの指輪はいかがなされた!」


「ぐ、グラフの指輪……?」


「あのユーティアが一つだけ持って行った古くて汚い指輪のこと?」


 ちぎれんばかりの勢いで第二王子と宰相はミーアを見た。


「ま、まさかグラフの指輪まで持ち出されたのか!」


「やはり魔導士たちの言っていた事は気のせいではなかったのか!」


 二人はついて来た衛兵に指示を飛ばす。


「遅いかもしれんが、すぐにユーティア様の足取りを追え!」


「ああ!ユーティア嬢が帝国へ渡ったら事だぞ……リリアスが黙っておらん」


 頭を抱える二人に追い打ちをかける。


「はぁ?ユーティアなら帝国の馬車でどっか行ったわよ!そのリリアスとか言うのの養女になるって。あの女が帝国の皇子様に気に入られるなんて、間違いなのよ。私が正してあげるのよ!」


「リリアス家がもう絡んでおるのか!」


「帝国の皇子だと!?もう手が出せぬようなものではないか!ラング!貴様一体ユーティア様に何をしたッ!」


「ひっ!」


 ラング侯爵は二人がかりの叱責に顔の色を失って小さくなるしかなかった。


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