第11話 甘い妄言

時は少し巻き戻り、ユーティアがいたラング家の庭先で3人はしばらく呆然としていた。


「ず、ずるい……お姉様……いえ、ユーティアは狡い……何でユーティアがあんなにきれいなドレスを着て、きれいな馬車に乗って、帝国の王子様と……そ、そうよ!間違えたんだわ!王子様は本当はミーアを連れて行くつもりだったのよ!でも間違えたんだわ!」


 きっぱりはっきり否定されたのに、都合の悪い部分はミーアの中で消し去られている。


「そうよ、私よりユーティアが勝っている訳ないもの!絶対そうよ!間違いないわ!ね、お父様、お母様!」


「え?ええ……」


「あ、ああ、そうだな。ミーア」


 ラング侯爵と妻であるマリーンはミーアの勢いに押される形で曖昧に返事をした。


「やっぱりそうなのよ!間違いは早く正さなきゃ!明日にも帝国へ向かって早く真実の愛を取り戻さないとだわ!」


 二人はミーアが何を言っているか良く分からなかった。真実の愛?そんな物、どこから湧いて来たのだ?

 ミーアの奇怪な言動、しかし


「王子様!ミーアがすぐに参りますね!そして間違ったユーティアなどすぐに蹴り飛ばして差し上げますわ!」


 自信満々に語るその姿に「まさか」と思い始める。


 この類の人間は自分に都合の悪い事は徹底的に封印し、都合が良く甘い事ばかりを信じる傾向がとても強い。

 そして力強く何度も何度も繰り返されると……信じてしまうのだ、その甘い妄想を。


「ミ、ミーアちゃんはこんなに可愛らしいのですものね!」


「あ、ああ!ミーアは可愛い。自慢の娘だからな!」


「うふ!ありがとう、お父様!お母様!寝不足は美容の敵よ、早く寝て明日に備えましょ!明日は帝国へ向かわなくちゃ」


 足取りも軽く屋敷へ向かうミーア。そして打算の段取りを素早く組み立てる二人。


 例えミーアにラング侯爵家の血が流れていなくても、今現在ミーアは正式なラング家の令嬢なのだ。

 その正式な令嬢が、帝国妃になればラング家は安泰ではないか?元々ミーアに継がせる予定だった家門だが、今からでも養子を得るなり、愛人を召し抱えて男子を産ませるなりすれば問題ないのでは?

 ラング侯爵はニヤリと笑う。


 マリーンにしてみても、過去の過ちが夫である侯爵にバレたが、ミーアがマリーンの娘である事実に何の変わりもない。

 ミーアが帝国妃になれば、マリーンはその母親だ。贅沢な暮らしが約束されている。こんな侯爵家なんか比べ物にならない贅沢な暮らし。

 マリーンも笑いに歪む顔が抑えられない。


「そうね、ミーアちゃん。可愛いミーアちゃんは可愛くいなくちゃね」


 大前提が狂っている事を、美味しい物しか見たくない三人は記憶の彼方に消し去っていた。



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