第30話 頭の病気ではないか?

「で、娘よ。お前は何をしにこの帝国へ来たのだ?」


 キラリとミーアの目が光って、口を開きます。


「わ、私は!そこにいる第一王子様が私を婚約者にしてくださるって言ったから来ました!間違ってユーティアなんかを連れて行ったのでしょう?だって私の方がユーティアより可愛いもの!絶対そうでしょう!ユーティアが選ばれて私が選ばれないなんてことは絶対にないんだもん!だってアレクシス様だってユーティアを捨てて私を選んでくれたわ!だから第一王子様だって私を選ぶわよね!これは絶対よ、決定なの!」


 わあっと洪水のようにミーアのおしゃべりは止まりません。流石の私もシューと顔を見合わせてしまいました。


「そ、そうよ!ミーアちゃんは可愛いもの!ミーアちゃんと結ばれた方がユーティアなんかより絶対幸せになれるわ!」


「そうよね!お母様もそう思うでしょう!だって私は可愛いもの!可愛くないユーティアなんて誰からも愛される訳ないんだわ!いつも辛気臭い顔をして小言ばかり!ドレスも地味だし、センスも悪いわ!私が着てあげてやっとドレスも見れるようになるのよ、だからユーティアのドレスは私が着てあげてるの!宝石もみんなそうよ!ユーティアが身に着けたって全然ダメ!私が使ってあげてるの!


 あら?今日のドレスは少しマシね?貰ってあげるからありがたく思ってね!」


 ミーアが喋り切り、口を閉じるのを待ってから陛下は「宰相」と人を呼び


「どれほどか」


 と、だけ尋ねられました。その壮年の気難しそうな方は眼鏡を少し直すと


「まず、不敬罪ですね。それから窃盗でしょう。嫡子を正当に扱わぬ時はわが国では罰則もありますが、かの国ではなかったかと思います。名誉棄損は入れても良いでしょうし、偽証も多いようですね。息をするように嘘をつくと言いますか。頭の中はどうなっているのでしょう、気になる所ですね」


「確かにの。流れるような盗人ぶりよな。あの娘の可愛いにいかほどの価値があるのか」


「無価値ですね」


 宰相と呼ばれた眼鏡の方は言い切りました。


「無価値」


 シューまで繰り返しました。


「くくっ!確かに無価値です。あの娘は可愛い可愛いと繰り返しますが、どこが可愛いかも私には分かりませんし」


 フィル兄様も笑い出しました。


「可愛いとはユーティアのような者の事を言うのよ。あの娘はただ不快なだけだわ」


 皇妃様もはっきり言い切りました。


「ミ、ミーアは!ミーアは可愛いわ!」


「いや、醜いな」


「歪んでいるぞ、お前の心を映したようだ」


「気持ち悪いわ、吐き気がする」


「どこに第一王子がいるのか分からんがその娘は何か我々とは違う物を見ているか?」


「頭の病気ではないか?」


 針の筵より冷たい視線が全身に突き刺さったミーアは、流石に青くなって震えていました。

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