第26話 輝く花に群がる虫

「ねえ、ユーティアはチャールズ・ラング侯爵の事をどう思っているの?」


「……元お父様ですか……私の養育に関わるお金を出していただいたことに感謝はしておりますが、それ以上は……。あの方が父親と言う気もさほど致しません。私はお母様と執事やメイドに育てられました。小さな頃からお食事も一緒に取っておりませんし、お母様が亡くなりマリーンさんやミーアが来てからは更に突き放されましたから、父親らしいことは一切していただいた覚えもありません」


 フィル兄様が王城へ向かう馬車の中で何でもない風に尋ねてきたので、私は素直に答えました。すると兄様は満面の笑みを浮かべるのです。一応辛い話、なのですが……?


「そっかー!ユーティアが少しでも情を残しているなら可哀想だからちょっとは手加減してやろうと思ったけれども、遠慮しなくて良いね!」


「え、遠慮って何でしょうか……」


 フィル兄様はまるでヒマワリの花が咲いたようにご機嫌に言うのです。


「いいかい?ユーティア。光り輝く物に羽虫や臭い虫が寄ってきやすい。そしてそれは実害はなくても不快なんだよ、ブンブンと飛び回られるとね。さっさと退治してしまうに限るって事」


「え?あ、はい……?確かにお料理にハエが飛んでくるのは不快ですけれど」


 あれはやはり嬉しいものではありませんから……。そういうと「ハエ!」とお腹を抱えて大笑いしてフィル兄様はもはや涙目です。


「そのハエが帝国に侵入したんだよ。国境を守っている兵士の中に我が家の魔導士たちもいるからすぐにわかったし、グラフの結界にも引っかかった。うるさいからいっぺんにやっつけてしまおうと思ってね」


「ハエ……まさかお父様とミーア達がこの帝国へやって来たのですか?一体何のために?」


 出ていけと言って私を追い出したのに、何をしに来たのかしら。意味が分からないわ。そしてあの人達を無意識にハエ呼ばわりしてしまった私は、やっぱり頭に来ていたんだわ。


「ハエの考えていることは良く分からない、と言いたい所だがユーティアから何か搾り取れると思ってるんじゃないのか?もう何の関係もないのにね」


「まさか、親子の縁すら切って来たのは向こうですよ。それなのにまた会いに来るなんて厚顔無恥な事は流石にないでしょう」


「ハエだからな~~~」


 え、本当にそうなのですか?そうだとしたらあの人達は人としてちょっとおかしいのではないでしょうか。あんな風に無理やり奪い放逐した私からまた何かもらえるとでも思っているでしょうか。


「ほら、見てごらん、王城の検問の所にいる馬車。あれはラング家の馬車じゃない?しかもだいぶ薄汚れているね、かなり急いでやってきたように見える。あの騒ぎ立てている娘がミーアかい?なんて下品な娘なんだろう。交渉は御者がやるものだろう?それなのに窓から身を乗り出して」


「お恥ずかしい限りです……」


 親子の縁、家との縁を切ってからもどうしてこんなに恥ずかしい目に合わなくちゃいけないのかしら。門番に止められ大きな声で言い合いをするミーアの横を私とフィル兄様を乗せたリリアス家の馬車は悠々と通り過ぎるのでした。


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