第4話 あの黒光りする虫を見る目と一緒
「辞めさせて貰います」「私も」「私も」「俺も」
私がリズと……途中から増えたメイド3名に囲まれて着替える間に、沢山の使用人が辞職を願い出ていました。
「な!な!な!どう言う事だ!」
「こんなに辞められたら、我が家はやっていけないわ!ね?ステラ、貴女だけでも残って?!」
ステラと呼ばれたメイドは冷たい目でお義母様の手を払い退けます。
「嫌です。給料は最低、癇癪で当たり散らし。メイドの私物ですら取り上げる侯爵夫人がどこにいますか」
「め!メイドの癖に!」
「そう言う所ですよ」
ぐっと言葉に詰まってお義母様はうめきましたが、本当にメイドの私物まで取り上げていたのですか?!
はしたないどころの話ではありませんね。
「ねぇ!お願い!アラン辞めないでぇ?」
料理人のアランにミーアがまとわりついています。アランは顔がミーア好みですからね。
「辞めます。触らないでくれます?下品だ。あとあんた食べ方が最悪だよ、5歳でももっときれいに食うよ。マナーって言葉知ってる??」
かなり乱暴に手を振り払うアラン。アランも夕飯を食べさせてもらえなかった私にこっそりと料理を作ってくれた人でした。
「ユーティアお嬢様は食べ方が綺麗だなぁ。あと残さず美味しそうに食べてくれるから作りがいもあるよ」
なんて言ってくれた優しい人なのに、ミーアを見る目はあの黒光りする虫を見る目と同じなのね。
なんとラング家にいた半分以上の使用人は辞職を願い出たようです。着替えを終えてメイド達に促されるまま、シューの前に立ちますが、本当に良いのかしら?
「シュー。いかがです?」
「お、よく似合うよ、ユーティア」
「ありがとう、シュー。でもこのドレス……」
平民が着るワンピースかと思ったら、ものすごく手触りのいい美しいドレスでした。
色は見る角度によって色を変える。絶対高い奴だわ。なんでこんな素晴らしいものをシューが?
「えっ?!何あれ!帝国式の最新ドレスじゃない!欲しい!あれ、欲しいわ!お姉様、そのドレス、私にちょうだい!」
いつも通りのミーアの前に、元執事見習いのトマソンが現れ、私に迫るミーアを止めてくれます。トマソンも辞職する一人のようです。
「ユーティア様はこのラング家のと関わりを正式に切りました。書類の提出も済ませています。ここに、ユーティア様がこの家の人間ではない事を証明する書類でございます。よってユーティア様はラング侯爵令嬢のお姉様ではごさいません、口をお慎み下さい」
「は?まさかそんな早く……」
しかし、書類は本物で役所からのサインも入っている。いつの間に?私、そんなサインしたかしら?……でもいいわ。どうせそうするつもりだったんだから、逆にありがたいわ。ああ、私は本当にこの家の子供ではなくなったのね。これからは平民としてーーーー。
「なら、平民じゃない!平民ならそんなドレス必要ないわ!ユーティア、私にそれをおよこし!」
分かった瞬間のミーア。こう言う貴族の悪い所だけはすぐ覚えるのね。私に飛びかかってドレスを取り上げようとするのを、
「痴れ者が!」
辞職予定のメイド、マリーとリリーに押さえつけられた。え?今の二人の動き早すぎよ、まるで女性騎士みたい!
「サンキュ、マリー、リリー」
にこにことシューが押さえつけられるミーアを見下ろしている。
「シュー、高いドレスでしょう?どうしたの??」
さほどでもないよ、と言いながらシューは書類を見せてくれました。
「流石にこれ以上ユーティアに一言も無しで進めるのはと思ってね、見てくれる?ユーティアにはリリアス家の養女になって貰おうと思って。リリアス家はね、ユーティアのお母様のお母様のお兄様の血筋の家なんだ。繋がりがあるんだよ」
「リリアス……!お隣の帝国の公爵家ですか?!」
私は授業で聞いたことがある隣国の公爵家の名前が出てきて驚きました。そんな大貴族様が私のお母様とつながりがあるなんて……。そしてそんな公爵家に私が養女……?
「そうだよ。当主のグラフィル・リリアスもユーティアに会いたいってずっと言ってる」
えっ?!どう言う事?シューは帝国の公爵様と面識があるのかしら?!戸惑う私を他所に、辞める使用人達はテキパキと準備を終わらせたようです。
「シュー……もう宜しいですか?シュー様。馬車が着きました」
「ああ、もう良いだろう。皆、帝国へ帰るぞ!」
「了解しました」
家の前に止まっている帝国式の最新馬車に私は目を白黒させるしかなかったのです。
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