第22話 帝国へ

「ったく使えないオッサン達!やっぱり伯爵なんてそんなもんね!さっお父様、お母様!帝国へ行くわよ!」


「ミーア、何を」


「だって、帝国の王子様は間違ってユーティアを連れて行ったのよ!本当はミーアを連れて行くつもりだったのに!」


 あの状況で、なにをどう勘違いすればそう言う考えに至るか理解は出来なかったが


「そ、そうよ。帝国へ逃げ……いえ、行けば良いのよ!このまま謹慎なんて……嫌よ、何されるか分からないじゃない!それにミーアちゃんは可愛いわ、ユーティアなんかよりずっとずっと!皇子はミーアちゃんを好きになるかもしれないわ」


 必死の形相でマリーンがミーアを擁護する。マリーンはチャールズの二人の兄から侯爵夫人どころか貴族扱いも、もしくは人扱いされていないことに気づいていた。

 むしろ社交界全体から白い目で見られ、爪弾きにされているのを感じ取っていた。

 しかし、それは自分の貴族としては非常識で不敬であり、無作法が招いたことだとは気づけずにいる。共にいるチャールズも優れた貴族ではなかったし、そんな両親を見ているミーアも貴族とは呼べない。

 ユリアデットからの教育と、王家で勉強をしていたユーティアは遠ざけられていたので誰も注意すらしなかったのである。


「帝国へ……?しかし、謹慎していろと」


 確かに第二王子と宰相は吐き捨てるように言って出て行った。王家の命に逆らう度胸はチャールズは持ち合わせていない。


「何をぐずぐずしているの!急いで仕度しましょ!あーもう!メイドが使えない子ばっかりで全然進まないわ!」


 ミーアは憤りながら、自室へ戻って行く、お気に入りのドレスや宝石を鞄に詰めさせているのだ。昨日ユーティアから取り上げたばかりのドレスを中心に。


「あなた、このままここにいても私達に明るい未来はない。あの殿下達の怒り様を見たら分かるでしょう?幸いミーアは本当に可愛らしいの!もし、皇子がダメでも帝国の高位貴族に見染められれば、私達も手厚く保護して貰えるわ。さ、行きましょう」


「し、しかしマリーン。王家を裏切るなんて、私には無理だよ……」


 ぐずぐずと駄々を捏ねる子供のように、今にも泣き出しそうな夫にマリーンは素早く見切りをつけた。


「では、あなたはここに残って一切の責任を背負いなさい!私達は行くわ!馬車よ!用意してっ!!」


「ま、待ってくれ!マリーン!」


 結局、ミーアとマリーンの荷物が大量に詰め込まれた馬車にほぼ身一つでチャールズ・ラング侯爵は転がり込んだ。


「だ、旦那様?!」


「わ、私は寝込んでいると言え!」


 訳が分からず狼狽える執事にそれだけ伝えるとラング家の馬車は走り出した。大量の荷物のせいで馬はスピードを出す事はできなかったが、追っ手がかかることはなかった。

 国防の要に据えていたグラフの指輪の消失による穴埋めの方法を誰も思いつかず、会議が長引いていたせいであったことなどチャールズは知る由もない。


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