婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?

鏑木うりこ

第1話 ユーティアの限界

やっぱりなのね……。私、ユーティア・ラングは何度目か分からないこの下らない寸劇をため息と、悲しみ、大きな理不尽を持って見つめていました。


「ごめんなさい、お姉様……だって、私の方がアレクシス様の事を想っているんですもの」


「ああ!ミーア、ありがとう。私が最初に間違えなければ良かったのだ。最初から私の婚約者はユーティアではなく君にすれば良かったのに……」


 アレクシス殿下と私の妹のミーアは貴族達を招いた夜会でぴったりと抱き合いました。

 紙よりも白い顔であろう私は、倒れないようにゆっくりと陛下に近づき


「申し訳ございませんが、体調がすぐれません……下がらせて頂いても宜しいでしょうか……」


「ああ……構わぬユーティア嬢。馬車で送らせよう……追って沙汰をする」


「かしこまりました」


 私は衛兵に支えられながら、陛下が用意して下さった馬車に乗り、ラング侯爵家に帰ります。

 我が家の馬車はミーアの為のもの……私を乗せる気はないのです。


「……」


 戻った所で誰も私を迎える者はいません。メイドも鼻で笑い、執事も見て見ぬふり。あまりに早く帰って来た私に、最近来た庭師のシューがびっくりした顔で走り寄って来ました。


「ユーティアお嬢様!顔色悪いです!夜会は?!お一人でお帰りに?!」


「シュー……また、なのよ」


「……ま、まさか、ミーアお嬢様が?」


 私はもう流れる涙も残っていません。ただ目を伏せて淡々と語るだけ。


「アレクシス殿下が欲しいのだそうです」


「嘘だろ」


 庭師のシューですら、驚く事。でもそれがこの家の日常。



「お姉様、ミーアにこれちょうだい?」


「ダメよ、これは私の亡きお母様からいただいた大切なペンダントですから」


「ひっ!酷い!お姉様!そんな古ぼけた汚いペンダントならミーアにくれても良いじゃないですか!」


 古ぼけて汚いペンダントを何故欲しがるのか、意味が分かりません。しかし新しいお母様の連れ子のミーアが泣きながら走っていきます。

 しばらくするとお父様とお義母様が私を責めに来るのです。


「お前は姉としての自覚が足りないのか!」


「ミーアに上げたっていいでしょう?!」


「やめて下さい!」


 ペンダントは無理矢理取り上げられます……。そして数日後に


「ミーア、あのペンダント、お願いだから返してちょうだい!」


「えー?汚いから捨てちゃったーだって、私要らないもん」


「酷い……っ」


 これがラング侯爵家の日常です。


「もう嫌……お母様、もう無理です」


 私は亡きお母様の最後の教えを実行する事にしました。もう、この家にいる事は私には無理です。


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