第24話 華やぐ街と張り切る兄様

「え?」


 公園広場に設置されているカラクリ時計がある。そのからくり時計は朝と正午、そして夕刻に開き音楽を流しながら永久魔力で踊るのだ。そのカラクリ時計が正午でもないのに動き出した。


「まあ!いつもと違うわ!」


 良くその時計を見ているであろう街のご婦人が声を上げた。


「本当ねえ、こんな曲も流れたのね」


 とても楽し気で、出てくる人形もいつもとは違う。可愛い女の子が現れて、パートナーの男性とくるくる楽しそうに踊るロマンス歌劇めいたカラクリに皆、時計を見上げた。


「ホントなんだなあ~。「グラフの末の娘」が帰還すると街は華やぐって」


「シュー様?どういう事?」


 俺もフィル様から聞いただけなんだけど、と前置きをしてから


「ユーティアは街に愛されているってことと初代グラフは結構面白い人だって事」


 二人はお忍びで街へ遊びに来ていた。


「きゃっ!飾りだと思っていたのにこの街灯ともるのね!」


 街のあちこちにある何の役にも立たなかった街灯の置物が淡い光を放つ。ユーティアの行く先々を照らすように。


「うわ!銅像が動いたぞ!」


 いかめしく敬礼をしている銅像が笑顔になり、手に花を持っている。


「おんもしれー!みんなユーティアを歓迎してる!」


「そんな、偶然じゃない?」


 シューの隣をユーティアは歩いて行くが、確かにユーティアの行く先々で不思議な現象は起こっていた。鳥の置物が可愛い音色を奏でたり、壁のタイルが光ってみたり。


「偶然じゃなくねえ?」


「……そうかしら」


 そう思いたかったのかもしれないが、街は完全にユーティアを歓迎していた。


「久しぶりの娘の帰還ですから、街のカラクリ達も大喜びでしょう。私も書物でしか知らない事ですけれど、色々と仕掛けがあるようですよ」


 出かける前にグラフィルはそう言って笑っていた。こんな色々な仕掛けをたくさん作った初代グラフはいたずら好きだったのかもしれないとユーティアは少し頭が痛くなった。


「シュー様、ユーティア様。申し訳ございません、火急のこと故お声をかけさせていただきます」


「どうした?」


 すっと現れた人影に許可を与える。


「帝国に恐れ知らずの阿呆が入り込みました。国境でもめ事を起こしましたが一応ユーティア様の血縁の方が同乗しておりましたのでグラフィル様の命により通しました」


「血縁……まさかユーティアの父親か?」


「それとその連れの女が二人。グラフィル様は血祭りに上げると張り切っておいでです。どうかグラフィル様をお諫めくださいませ!」


 入ってきた阿呆どもをどうにかするのではなく、グラフィルを止める為に二人に戻って欲しいとリリアス家の護衛は二人に懇願してきたのだった。これには二人も顔を見合わせて笑ってしまったのだった。



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