第4話 ナナ
ナナと毎日一緒に帰るのが、当たり前のようになった。
クラスでは天澤と新田とも仲が良いみたいだけど、家の方向が違うから帰りは一緒にならないみたいだ。
毎日一緒にいても話題が尽きることなく、いろんな話をする。
どうやらナナはあまり良い食生活をしていないみたいだ。
うちも高校生の姉貴と二人で作っているから、バランスのいい献立とは言い難いけど、ナナはそれ以上に食に疎い。
ナナに、何か美味しいものを食べさせてやりたい。
俺が調理部に入部したのは、そう思ったのがきっかけだった。
母が入院していて、急に付き添いが必要になったりもするので、文化部で、尚且つ、休みやすいところを探していた。
運動部は大会などで練習量が変わったりもするし、吹奏楽などの全員で一つの事をするようなところも休みにくい。
調理部ならそういうところは融通が利きそうな気がしたし、家の事を考えても、料理はうまくなった方が良い。
ちょっと心配だったのは、女子しかいないかも?というところだったけど、なんとうちの調理部の部長は男だった。
浅井部長の父親は有名なレストランのシェフで、自身も小さい頃から料理をすることが当たり前になっていたんだとか。
なので、中学生の調理部とは思えないくらい本格的で、勉強になる。
もちろん男の部員も何人もいて、最初の心配は無くなった。
基本的に、部活で作ったものは持ち帰らず、その場で食べるので、家でもう一度再現してみる。
姉貴や父に味見してもらって、うまく出来たらナナにも食べさせる。
家は学校から近いから、部活や委員会が早く終わる日はナナを家に呼んで、朝仕込んでおいたクッキーを焼いたり、ゼリーを出したりして、一緒に食べる。
ナナが大げさなくらい喜んで、ニコニコして食べてくれるから、嬉しくてまた作る。
調理部に入って、本当に良かった。
ナナは結構律儀で、頻繁におやつを作ってくれるなら、お金を払うと言い出した。
うちは正直、経済的には安定している方で、子供だけで家事をしている分、お小遣いも余裕をもって貰っているんだけど、
「それはお父さんが一生懸命働いたお金で、ハチに使ってほしくてあげてるんだからダメだよ!」
と、言ってきかない。俺が、俺の為にナナに使うんだから良いのに?とも思うんだけど。
二人で相談した結果、毎月二人でおやつ貯金をすることになった。
そこから材料費を出しておやつを作ることにした。それはそれでやりくりの練習にもなるし、ナナとの”特別“が増えたみたいで嬉しい。
初めてナナがウチに来た時、ナナが俺の部屋の本棚を見て驚いた。
「あっ!これ、うちにもある!ハチもこの作家さん好きなの?」
それはどちらかと言うと少女向けのラノベだったんだけど、たまたま姉貴が持っていたのを読んでから気に入って、自分で揃えるようになったシリーズだった。
「あー…。まあね。」
”少女向け“に、何となく気恥ずかしさを感じながら答える。
「嬉しい!私もこの作家さん大好きで!少女向けのラノベで、基本はラブコメなんだけど、推理小説っぽい回があったり、この作家さん自身が歴史好きだから、海外の文化とか、教科書に載ってないような歴史の解釈があったりしてさー。タイムスリップ物もあって、男の子でも楽しいよねー!」
ナナは全く気にする様子もなく、逆に男の俺がこのシリーズを読んでいることを喜んでいる。
「そうなんだよな!それに主人公も一生懸命だから、応援したくなるって言うか…。」
「そうなんだよー!すっごく普通で不器用なんだけど、自分のできること一生懸命やるってところに………。」
ナナ、よほどこの作家さんが好きなんだな。いつもより興奮気味に話している。
ナナとまた共有できる話題が出来たのが嬉しい。
「ハチ、本好き?いっぱいあるねー。」
「好きだよ。母親が入院してから、病院で過ごすことも多かったし、母が寝ている間、そばにいて本を読む機会が多くなってさ。もう本を読むのが習慣になってる。」
何冊も本を読んでいるうちに、だんだん本が好きになっていった。物語に集中していると、余計なことを考えないで済むのも良かったのかもしれない。
「そうなんだ。私も本好き。本は持ち歩けるし、世界が広がって良いよね!」
「わかる!俺もいつでも鞄に本を入れて、持ち歩いているよ。」
「一緒だー。」
またナナが喜んでいる。ナナが嬉しいと、なんでか俺も嬉しい。
「そういえばナナは図書委員だったな。よっぽど本が好きなんだなー。」
「うん。小学生の時も図書委員で、毎日図書室にいたから、図書室は家みたいなものだね。」
「ははっ。そのうち布団持ってきて、寝泊まりしそう。」
「あ!それ良いね。図書室でお泊り読書会!」
ナナなら、本当にやりかねない勢いだな…。
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