第14話 本当の私

 今日の放課後は、しおりちゃんと2人で、文化祭で使う材料の買い出しに行く。

 ちょっと図書室に用があったので、しおりちゃんに先に昇降口に行ってもらった。

 用を済まして、急いで昇降口に向かう。

…あれ?いない?

 下駄箱に靴が無いから、外にいるのかなー?

 靴を履いて外に出てみたけど…いない。

 あれー?

 近くをきょろきょろしてみると、少し離れた体育館の脇に、しおりちゃんがいた。

 不思議に思いながら近づくと…なんと告白されている!

 さすが、しおりちゃん!

 いままでも何回かそういう話を聞いたことあったけど、現場に遭遇するのは初めて!

 相手は…2年生かな?よく見えないけど。

 背も高くて、カッコ良さそうな感じに見えるけど……あ、あの先輩は知ってる!

「先輩。ありがとうございます。だけど、中学生の内は、お付き合いとか考えていないので…すいません。」

 ダメかー!

 人が振られる現場を、初めて見てしまった。先輩、すいません!

 しかし、しおりちゃん慣れてるなー。断り方もスマートと言うか。

 さすがだなー。

 先輩が行ってしまうと、しおりちゃんがこちらに向かって歩いてくる。

「ポチ!」

 私がいると思ってなかったので、しおりちゃんが驚いている。

「ごめん。見るつもりは無かったんだけど、タイミングが悪く…。でも、すごいね!やっぱりしおりちゃんはモテるなー!羨ましい!」

 私がそう言うと、しおりちゃんはちょっと悲しそうな顔になった。

「全然良くないよ。私はポチが羨ましい。」

 え?…私?

「たくさん告白してくれる人はいるけど、誰も本当の私を見てくれない。見た目が少し大人っぽいだけで、中身もそうだと思われるんだよ。きっと、私服も大人っぽいとか、少女漫画とかは読まなくて、ファッション誌が好きそうとか、洋楽聞いてそうとか。…男慣れしてそうとか。」

 本当のしおりちゃんは、少女漫画好きの奥手なタイプだ。

…そういう悩みがあったなんて。

「だから、私はポチが羨ましい!人からどう見られるかを気にせず、自分らしくいて、ちゃんとそのままの自分を見てもらえて、愛されてるから!私は…他の人から思われてるイメージを壊すのが怖くて、…つい、カッコつけてしまう。」

…そんな風に思ってくれてたんだ。こんなに本心を聞かせてくれるしおりちゃんは初めてだ。

「しおりちゃん、そんな風に思っててくれて嬉しい!だけど、私は知ってるんだ。一生懸命、洋楽を聞いてたから英語が得意になったことも、ファッション誌をたくさん読んで、私の服を選んでくれていることも。それに、周りの期待に応えるって、そんなに簡単にできることでもないでしょ?」

 しおりちゃんの目に涙が浮かぶ。

「ポチは最初からそうだったよね…。カバンについてるチャームを見て、そんなに大人っぽいのに、少女漫画好きとか、ギャップが可愛くてズルい!って。ちゃんと私の事を見てくれて…だから、ポチと友達になりたいって思ったよ。」

 しおりちゃんがカバンにつけているチャームは、少し古い少女漫画に出てくるもので、物語では重要な意味のある、『雪の結晶』なんだけど、その漫画を知らない人から見たら、ちょっとおしゃれなスワロフスキーのチャーム。

 私はその少女漫画も、スピンオフの小説も読んでいたので、入学式の日、そのチャームを見つけた時、すごく嬉しくて、珍しく自分から声を掛けた。

「嬉しい!私も友達になりたいって思ったよ。それに、しおりちゃん、ちゃんとしおりちゃんの事を見てくれてくれる人はいると思うよ。」

 しおりちゃんは、ちょっと半信半疑の不思議な顔をする。

「さっきの先輩、…ここだけの話だけど、すっごい少女漫画好きなんだよ!図書室でスピンオフの小説読んでたら声掛けられて、ちょっと話したことある。だから、しおりちゃんの事を好きなになった理由も、もしかしたら他の人と違ったのかも?」

 今度は、しおりちゃんがビックリした顔になる。

「私…先入観で見られるの嫌なくせに、他の人の事、…自分も先入観で見てたのかも。さっきの先輩も、ちょっと見た目が良かったから、この人も大人な私を好きなのかも?って思って。」

 しおりちゃんの涙がおさまる。

「ふふっ、本当はすごく趣味が合ってたかも?」

「そうかもねー!もったいなかったかなー?」

 2人ですっかり笑顔になった。

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