第15話 秋の俺と大福ちゃん

 すっかり秋だなー。

 図書室に行く途中で、大福ちゃんに会った。

 ん?俺だって受験生だし、図書室くらい行くんだよ?

「大福ちゃーん!」

 廊下で声を掛けると、呆れた大福ちゃんがこっちに来る。

「今井先輩…。」

 もう、名乗る気もないみたいだな。

「大福ちゃん、顔が小さくなってない?」

 俺はまた、ほっぺたを触ってみる。

「やっぱり!ぷにぷに感が少し減ってる!でも、相変わらずやらかいねー!」

 迷惑そうにしながらも、大福ちゃんは好きなようにさせてくれる。

 あぶない奴だとは思われてないってこと!

「今井先輩も、髪が黒くなりましたね。」

 むにむにされたまま、大福ちゃんがしゃべる。

「うん。受験生だからね!というか、俺、部長だし。2年で次期部長に決まった時に、すぐ染めたんだけどさー。洗うたびに色落ちちゃって、初めて大福ちゃんに会った時は少し明るかったかもね。それからは染めずに、髪切って傷んでるところ減らしてたから、今やっとキレイになったかな?」

 むにむにしたまま、俺も答える。

「今井先輩、意外とそういうとこ、しっかりしてるんですね。」

 初めて大福ちゃんに感心されたかも?ひどいなー。

「どんだけ俺がいい加減だと思ってるのー?」

 あー。これはずっと触ってられるヤツだな。スライム?みたいな。

「いえ、ちょっと最初の印象が…。ピアスも無いですね。」

 和己が見てたら怒るかなー?

…ああ、ピアスと言えば、

「大福ちゃん、初めの頃さー、和己がピアスしてたの知ってる?6個。」

 むにむにがビクッとした。かわいー。

「話は聞いたことはありますけど、ちゃんと見たことは無いです。」

 やっぱりー。

「和己さー。よく大福ちゃんの教室行くでしょ?行く前に、わざわざ3年の教室で、ピアス外してから行ってたんだよ。1年生が怖がると悪いからって。ふはっ、そんな不良いる?しばらくそうしてたんだけど、ついにピアスをつけてくるのもやめて、髪も染めてさー。和己変わったよねー。」

 大福ちゃんがキョトンとしている。

「そうなんですね。私には最初から優しい先輩なので…。やっぱり優しいですね!」

 大福ちゃん、嬉しそうだなー。

 和己の事、褒めておいたし、このむにむには許してよ。

 あ、でもさすがに赤くなってきた?

「ごめん、大福ちゃん!ちょっと赤くなっちゃったかも!」

 両手でほっぺたを包み込み、顔を近づけて赤くなってないか確かめる。

「あのっ、先輩、ちょっとそれは…。」

 照れてるー。かわいい。和己はこういうところが好きなのかなー?

 と、思ったら、いつのまにか大福ちゃんの後ろに和己がいた。

「恭平、なにしてんだ?」

 大福ちゃんに見えないように、俺にだけ向けた顔。こえー。不良かよ。

「お、和己。相変わらず怖い顔してんなー。」

 大福ちゃんから手を離すと、大福ちゃんが和己の方へ振り向く。

 その途端、もうニコニコしている。…すげーな!

「あ、先輩、今井先輩から、小石川先輩の優しいところのお話を聞かせていただきました!やっぱり先輩は善良ですね!」

 大福ちゃんが嬉しそうに笑顔を向けると、今度は本心から、本当に腑抜けてニコニコしている。

 今のうちに…逃げよう!

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