第6話 いつもいる

 委員会の仕事も慣れてくると、周りの事も見えてくる。

 図書室に毎日来る人がいる。

 図書室というより、主に自習室にいるんだけど、長身細身で、少し長めの黒髪が顔を隠している。

 図書委員の先輩によると、3年生の柳行人という人で、入学以来、成績が常に学年1位なんだそうだ。

 実は、渡り廊下で今井先輩たちにからかわれていた時、柳先輩も中庭にいたみたいで、それをきっかけに話すようになった。

「遠目に見ても恭平たちの腰くらいに見えたけど、横に並ぶと本当に小さいな。」

「先輩方が大きいんです!」

 柳先輩は細身だから、余計に縦長に見える。私の中では『柳』という名前のイメージそのもので、落ち着いていて物静かなんだけど、しなやかで、強い外圧があっても受け流しそうな感じの人だ。


 いつものように、カウンターに返却された本を点検して、まとめてカートに乗せて、また本棚に戻しに行く。

 残念ながら、ちょっと本棚の高い位置の本だと、私では届かない。

 いつもはカートに踏み台を積んでいるんだけど、今日は忘れてしまった。

 まあ、手が届く位置の本だけなら問題ないんだけど、そういう時に限って高い位置の本がある。

 踏み台、置いてある場所が遠いんだよなー。

 試しに手を伸ばしてみる。

 うーん。届かない。思いっきり背伸びしても…無理。

 そんなことをしていたら、柳先輩が現れた。

「お、いたのか。カートが一人で動いているかと思ったぞ。」

 むっ。

「いますよー。」

「冗談だよ。本棚に届かないんだろ?貸して。どこ?」

 見られてたんだ。ちょっと恥ずかしい。

「これなんですけど、…あの緑の本の右側です。」

「うん。」

 本を受け取った柳先輩が、私の後ろから手を伸ばす。

 ちょうど、カートと本棚と柳先輩に挟まれている形で、先輩が手を伸ばすと私の背中に先輩の体が当たる。

 なんか…こういうの緊張するな。

 下から柳先輩の顔を見上げると、いつもは髪で隠れている顔が少し見える。

 あれ?もしかして美形なんじゃ…?

「ここで良いのか?」

「あ、はい。ありがとうございました。」

 思わず、じーっと柳先輩の顔を見る。

 髪…どかしてくれないかな?

「どうした?」

 逆に、不思議そうに顔を見られる。

「あ、髪の毛の下の顔が見たいなー。と思って。下から見たらキレイだったので。」

 柳先輩が少し驚く。もともと、あんまり感情の起伏が少ないタイプなので、これでも結構驚いているのかもしれない。

「何、言ってんだ。もう行くぞ。」

 ちょっと照れていたかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る