第3話 委員会

 今日は初めての図書委員会。

 まずは初日なので、顔合わせと大まかな年間計画の説明がメインだった。

 図書委員って、物静かな感じの人が多いのかなって思ってたけど、全然そんなことはなくて、明るくて積極的な人が多く、とっても賑やか。

 なんといっても委員長が明るい。佐々野秀一委員長は、髪がちょっとツンツンしてて、耳にはうっすらピアスホールが見える。さすがに学校にはつけては来ないみたいだけど、休日はどんな感じなんだろ?

 眉がキリっとしてて、話し方にも覇気がある。図書委員長というよりは応援団長っていうイメージ。

 身体も大きくて圧倒されるのに、みんなを巻き込んで話を進めてくれるから、何だか安心していられる。

「…と言うわけで、今日のところは説明はこのくらいにして、このあと実際に図書館に行って中を案内します。当番以外の2年は解散。1年と3年がペアになって、3年が案内すること。うちの図書館は広いし、一回で図書館の仕事を覚える必要もないから、今日は大体の書架の位置の確認と委員同士の交流って感じで気楽にいこう。ペアは決めてあるから資料確認して、各自案内が終わったら解散で。じゃあ、よろしくお願いします。」

 佐々野委員長が話し終えると、各自資料を見てペアを探したり、帰る支度をしたりし始めた。

 私のペアは…資料から名前を探すと、なんと佐々野委員長だ。よりによって委員長とは…。緊張するな…。

 きょろきょろして佐々野委員長を探すと、すでに後ろにいた。

「あの…」

「お前、ゴミの子だろ?」

 ゴミの子?なぜか楽しそうだ。

「あの、藤川です。よろしくお願いします。」

 ちょっと頭を下げてあいさつする。

「この前、渡り廊下で恭平と有川に絡まれてた子だろ?俺もいたんだよ。」

 あー…、そういえば、中庭にいたような…?

「うんうん。図書委員会に来てくれて嬉しいよ。先にこの部屋のカギを職員室に置いてくからちょっと付き合って。」

「あ、はい」

 荷物をまとめて廊下に出る。全員が部屋から出てから佐々野委員長がカギをかけて、二人で2階の職員室に向かう。

 佐々野委員長でっかいな。私の頭のてっぺんの位置より、佐々野委員長の肩の方が高い位置にある。

今自分の身長が142cmだから、肩から頭まで30㎝くらいだとして…175cmくらい?

3年生ってそんなに大きいのかな?

「藤川って本好きなの?」

 振り返りながら、佐々野委員長が聞いてくる。

「あ、はい。本も好きですけど、図書室の雰囲気が好きで。小学生の時も図書委員でした。」

「あー、良いよな。俺、図書室の匂いが好き。」

「匂い。」

「なんか…紙とかインクの匂い?かな?本棚も多いから、木の匂いも良いのかも?」

「あー、確かにそういえば落ち着くかも」

「だろ?良いよなー。あっ、でも図書館とか本屋の匂いでお腹痛くなる人いるんだって。藤川はどう?」

「えっ!?意識したことなかったです…」

…なんかすごく話しやすい。あっという間に職員室についた。

 佐々野委員長が職員室にカギを返しに行く間、廊下で待つ。職員室の前の窓から外を見るとちょうどグラウンドの真上だ。今日使っているのは陸上部かな?細身の部員たちが何週もトラックを走ったり、100mダッシュのタイムを計ったりしている。

 カッコいいなー。陸上部の人たち、体型に全然無駄が無くて体が軽そう。私は走るの苦手だから憧れる。…部活頑張ろう!

 あれ?よく見るとトラックを走る人の中に、見覚えのある人がいる。あれはたぶん…小石川先輩だ。とても涼しそうな顔で走っている。陸上部だったんだ。

 やっぱり、怖そうには見えないけどなー?

「お待たせー。図書室行こうか。」

 職員室から出てきた佐々野委員長が、窓の近くの私のところまで来た。私が外を見ていたので、自分も窓の外に視線を向ける。

「今日はグラウンドは陸上部か。和巳が走ってる。そういえば藤川は何部?」

 3階の図書館に向かって歩き出しながら、佐々野委員長が聞く。

「私はテニス部にしました。」

「じゃあ、部長は三沢だな。うちのテニス部は硬式だし、藤川は身体が小さいから初めは大変かもなー。」

「結構ボールのスピード早いですよね。三沢部長はカッコいいです。」

 三沢部長や3年生の乱打を見ていると、ラケットがボールに当たる瞬間の音にキレがあって迫力がある。

「そういえば佐々野委員長は何部なんですか?」

「俺はバスケ部。」

「長身だし、ピッタリですね!バスケ似合いそうです!」

「そう?身長はもっとデカくなりてーなー。190くらいには」

「えっ!?首が痛いです。」

「あー、ボールと間違うかもなー。」

 自然と佐々野委員長の手が頭に乗る。感触だけで手が大きいのが分かる。本当にドリブルされそうだな…。

「図書室はもう来たことある?」

「あ、はい!何度か来ました。本当に広いですよね!西棟の2階のワンフロアのほとんどが図書室なんですよね!」

「じゃあ、司書室に行こうか。」


 3階の司書室は自習室の入り口とは別で、少し離れたところにある。佐々野委員長がカギを開けて中に入る。

 10畳くらいの部屋にいろんなファイルが並んだ棚と、文房具などの備品、プリンターなどがある。物が多いので室内は狭く、ちょっとした倉庫として使われているみたいだ。

 真ん中に長テーブルと、壁際に折りたたみいすが立てかけてある。

 佐々野委員長が折りたたみ椅子を2つ持ってきて、テーブルのところに並べる。

「こっち座って。」

 佐々野委員長の隣に並んで座ると、テーブルの上に館内図を出して書架の位置や分類の仕方を教えてくれた。

「この司書室は普段はほとんど使わないんだけど、図書室内は静かにしないといけないから、委員同士で相談ある時とか、プリンターがあるから先生がプリント類作るのに使ったりするかなー。」

 ここはとても静かだ。

 このフロアのほとんどが自習室だからということもあるけど、位置的に校舎の裏側で窓の外にも人がいないからかもしれない。

「ここは静かなんですね。」

「ああ、自習室からも少し離れてるから音も届かないし、窓の外の辺りは部活でも使わないしね。」

 窓の外を見ると、いつの間にか陽が落ちて、夕日が辺りをオレンジ色に染めている。

「ちょっと遅くなったし、説明はここまでにしようか。」

「はい!ありがとうございました。」

「このカギ、職員室で保管してるスペアだから置いてくるけど、藤川は図書室寄ってく?」

「はい!せっかくなんで、教えてもらった書架の位置を確認してから帰ります。」

「そっか。じゃあまたな。」

 司書室の前で佐々野委員長と別れて、図書室に向かう。さっき教えてもらったから格段に本が探しやすい。

 この図書室も、居心地良さそう。委員会の雰囲気も良いし、明日からが楽しみ!

 また新しい居場所を見つけた安心感で、胸が少しづつ温まっていくのを感じた。

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