第34話敗北
屋上へ続く扉を勢いよく開ける。
「おい、どういうつもり」
「ーーー泥海!」
「うわっ……!?」
待ち構えられているため、変にコソコソするよりかは、と思ったが、扉の横で準備していた男の魔法で、足が泥に取られる。
「ロックっ!」
そして、両手を硬い岩の手錠で拘束される。
「よく来たなぁ、ノア!」
声のする方を見ると、拘束され、横たえられたリア、ルアと、気色の悪い笑みを浮かべる伯爵家の息子。
二人の服は大きくは乱れていないようで、最悪な事態が起こる前に辿り着けたようだ。
「お前……どういうつもりだ!」
「平民のゴミカスの分際で、王族や貴族と仲良くいちゃいちゃしやがったノアに、素晴らしいショーを見せてやろうと思ってなぁ!」
王族? 一体誰のことか心当たりがない。
「冗談はやめろ、犯罪だぞ」
「はいぃ? そんなもんねえよ。ていうか、俺がやることが法だ。ってことで、やれ」
「へい」
「うす」
俺を魔法で拘束した二人が、俺に一方的な暴行を加える。
この前クソ貴族に使った風魔法を使うが、体を固定されているため効果は薄かった。
俺はなすすべもなく殴られ続け、腕を一本へし折られた。
「お、らぁ!」
「っ〜〜〜がぁぁぁぁっっ!?」
バキリという嫌な音と同時、一瞬呼吸が出来なくなる。
その後に勝手にでる悲鳴も、痛さを紛らわせるものではなかった。
「よぅし、もういいぞ」
胴体だけでなく、顔も結構殴られたため、ひどい顔になっているはずだ。
そんな俺を笑顔でやつは見る。
「痛いよな? 顔も、腹も、背中も、腕も」
「……気が済んだか?」
「まさか。この程度じゃ許さねえよ。お前には、これからこの双子皇女が俺に堕ちていく全てを見せてやるよ。キツいぞ? 目の前で寝取られるのは。その身体の痛みなんて忘れるくらい、心が痛いかもなぁ!」
そう言って男はリアの顎を掴み、顔を歪めさせる。
だが、リアは一切抵抗しなかった。
なんでリアは抗わないんだ? この状況で大人しくしてるような性格じゃないだろ。
なんにせよ、このままだと陵辱が始まるため、俺が気をひく。
あいつとリオラ姉ちゃんを殺した貴族は親子だったな。
どうせクソみたいな思想で自己中心的な行動して、それを意味不明な理論で正当化してるに違いない。
そうだな、なら……。
「……だっせえな。金、権力、脅し、暴力で女の子屈服させてイキってるの、『自分に魅力がないからパパの力で言うこと聞かせてますぅ』って公言してるのわかんないの? それともわかってやってんの?」
ぴくり、と男の眉が動く。
「なんだと?」
「聞こえなかったのか? お前が自慢げに言ってる金も、権力も、何もかも
「舐めた口聞きやがって!」
「もっと言ってやるよ! そのクソのパパとお前二人とどっかの平民一人を、女の人一人がどっち選ぶか聞いたら全員平民一人取るくらいてめえらは人でなしでなんの価値もないんだよ!」
つい私怨も混じるが、まあいいだろう。
「今ここで殺してやろうかッ!」
「ゔっ……」
思い切り頬を殴られる。
「……効かない、な。お前みたいな
もう一発、反対から拳が直撃し、骨が折れたような音がした。
「もういい、お前は地獄のような経験をさせて心をへし折ってから、ミーシアを誘い出すのに使おうと思っていたが……その間にメディアス家とフィレンツ家に嗅ぎ回られるのも面倒だ。今ここで殺してやる」
なんでその情報をこいつが知っているんだ?
「な……お前、その情報どこで……」
初めて見せた表情に、男は憤怒から一転、楽しげに語り出す。
「そこの左にいる方が教えてくれたよ。質問しても無視するから、もう一人の方を殴りつけたら泣きながらすぐに答えてくれたぜ? めちゃくちゃ興奮したぜ」
……あぁ、なんとなく分かった。
リアは妹のルアか、ミーシアやサーシャ、どちらかを選ばなければならなかったのか。
ルアが殴られることを受け入れて、秘密を守る努力をするのか、それとも情報を吐いてとりあえずその場を凌ぐのか。
機械的に判断すると、一度口をつぐんでも結局限界が来るだろうから、その判断は間違っていない。
でも、人の感情はそんな単純なものじゃない。
人は一人で生きていけないことを人生で体感しても、なお人を嫌って恨んできた俺には痛いほど分かる。
だから、
「リア! お前は間違ってない! 少なくとも、俺はお前の判断を許すっ!」
「何言おうが、あいつらはもうすぐ俺のものになるんだよ!」
奴の手が首にかかる。
騎士科ということもあり、強い握力が頸動脈をゆっくりと締め上げる。
「っ……て、めぇみたいな、二人を見分けられもしないやつに……二人が靡くわけねえだろ……イ●ポ野郎ーーーっ!」
俺の身体が首にかかった方の腕だけで持ち上がる。
こういうとき、自分の小さく軽い体が恨めしい。
「……どこまで人を馬鹿にすりゃあ気が済むんだこのクソ野郎が」
奴は俺の体を転落防止の柵の外に出す。
俺の足元には何もなく、遠く先にある地面のみ。
「っかはっ……ぐっ……」
首の手をどうにかしようと掴む手も、力が徐々に入らなくなる。
「お前の女たちが俺によがり狂ってるところを地獄で見てろーーー死ね」
奴の手が、首から離れた。
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