第6話魔法使い リオラ(姉ちゃん) 過去編
俺はミーシアに買われる前も奴隷だった。
トラブルで住民と騎士に暴力を振るわれ、そのまま奴隷商人に売られたのだ。
そして、幸いにも買い手はすぐに見つかった。
俺より濃い金髪が綺麗な魔法使いの女性だった。
彼女はリオラといい、なにやら俺に魔法使いの素養があるため、育てて助手にしたいようだった。
奴隷に拒否権などあるわけがなく、そして俺自身も一人ぼっちでいることが辛かった。
しかし、ずっと一緒にいた人間ですら裏切るのだから、何も知らない相手なんて信用できるはずがなく、俺は控えめにいってめちゃくちゃ警戒していた。
「きみ、名前は?」
「……のあ」
当時10歳くらいにしては無愛想な返しだったと思う。
それでもリオラは笑みを浮かべ、頭をわしゃわしゃと撫でる。
「そうか、ノア。私のところで一緒に暮らそう」
リオラがは俺をぎゅっと強く抱きしめる。
ボロボロだった俺の心は、久しく感じなかったその温もりに救われたのだった。
それから俺はリオラと山奥の家で一緒に暮らすようになった。
リオラは俺に家事と魔法の練習を課した。
特に魔法の練習はキツかった。
魔法に体力は必須! と言われて山の中を走らされたり、なかなか魔法のコツが掴めなかった時には魔物の前に放り出されて魔法を撃たなければ大怪我間違いなし!みたいな状況にされたこともある。
ただ、それらが終わった後にはいつも膝の上に俺を乗せて、ずっと頭を撫でてくれた。
「ちょ、やめ……うぅ」
「照れるなよ〜」
俺はいつも嫌がるような素振りを見せていたけど、その暖かさだったり優しい手つきが大好きだった。
いつのまにか、警戒心なんて解きほぐされていて、いつも笑顔だった記憶がある。
家事は洗濯や掃除をよくやっていたが、料理を頼まれることは最初の頃は全くなかった。
ある日、俺は少しでも役に立ちたいと思って、その辺から台を引っ張ってきて、その上に乗り、包丁で野菜を切ろうとした。
葉野菜はサクサクと切れて楽しく、次は硬い野菜を切ろうとする。
剣とは違い、少し難しい……。
サクリ、と指を切ってしまった。
幼い体では力が足りず、力んだところで刃が滑って深く指を切ったのだ。
「ーーーいったぁ!」
「!? どうしたんだノアくん!」
思わず叫ぶと、書斎で魔法に関する何かを考えていたリオラが慌てて飛んでくる。
そして俺の指を見るなりびっくりするくらい狼狽える。
「あぁっ指が! ええとええと……ば、絆創膏と消毒……あわわあわわ」
なんやかんやで指の処置が終わると、リオラの事情聴取が始まる。
「……なんで包丁なんか使ったんだい?」
彼女の表情はいつになく険しく、見つめる目も咎めている。
「えっと……俺がもっと家事できたら、リオラ姉ちゃんもっと楽になるかなって」
気まずくて目を逸らしていたが、気になってチラリと見るとリオラは大きく目を見開いている。
「俺を助けてくれたのはリオラ姉ちゃんだし、俺もお世話になりっぱなしじゃなくてなにかもっと貢献したーーーうわぁ!?」
話を遮るようにリオラが俺にぎゅーっと抱きつく。
「ノアくんっ! 私その気持ちだけで感無量だよぉ!」
正面から掻き抱かれ、俺の顔は大きな胸に埋もれる。
「でもね、私はノアくんがいるだけで幸せなの。そこそこでも魔法の才能があって、家事も一生懸命してくれて、普段リオラ姉ちゃんって慕ってくれて……献身的に毎日お世話してくれて、もうそれだけで私は十分なんだ」
「リオラ姉ちゃん……」
「そんな大好きなノアくんが包丁なんて危ないものを不必要に持って怪我したら……ノアくんの綺麗な体が傷ついてしまったら私は辛いよ」
リオラの言葉に、申し訳なかったと俺は反省する。でも包丁はダメで魔物の前に放り出すのはいいのはよくわからないけど。
「だからノアくんの指に傷が残らないように治しに行こうか」
俺はリオラに告げられて、一緒にまちの教会に行くことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます