第7話リオラとの別れ 過去編

 そんな日々を過ごして2年。

 そこそこ魔法を使えるようになり、俺の才能ではもうあまり上達が見込めなくなった頃。


「ノアくん、話があるんだ」


 一緒に料理を作り、食卓に並べているとリオラが神妙な雰囲気で俺に話しかける。


「どうしたの?」


 いつになく真剣な表情なので、俺もなにか重要な話なのだろうと察し、耳を傾ける。

 新しい魔法の話か、それともまた別の仕事を任せてもらえるのだろうか。

 これまでリオラは俺が嫌な気持ちになるような話をしたことがなかった。だから、続く言葉はよりショックだった。


「……ノアくんを奴隷から解放しようと思うんだ」


「えっ……」


 捨てられる、俺はまずそう思った。

 これまでの奴隷ぽくない態度がいけなかったのか。家事が上手くできてなかった? 魔法が全然ダメだったから? 料理が美味しくなかったのか? それとも俺に飽きたの?

 いろんな考えが頭の中を流れ、そのどれもが当てはまりそうでゾッとする。


「俺はもういらないの?」


 泣きそうな声で俺は聞く。いや、泣いていたのかもしれない。

 するとリオラは慌てて訂正する。


「え! 違う、違うよ! 全然そんなつもりじゃないさ! ただ、奴隷と主人の関係が嫌になったんだ。これからはもっと対等な関係で……家族みたいに……なりたいと思って……」


 話すにつれて、照れ臭そうな、恥ずかしそうになるリオラ。

 一方俺は、リオラが言ってくれた言葉がとても嬉しくて内心飛び跳ねていた。


「家族……」


 もう家族なんてできないと思っていたし、家族になって欲しいと言ってくれる人なんていないんだと思って諦めていたし、期待したいなかった。

 でも、ここにそんな人がいたんだ。


「な、なりたい……!」


 俺がそういうや否や、リオラは嬉しそうに抱きつく。

 俺は豊満な胸に押しつぶされながら、嬉しくて泣く。リオラもつられて一緒に泣くのだった。




 だからだろう。二人とも、嬉しさで気が緩んでいたのだ。

 高まる魔力、発射された魔法に気付くのが遅れてしまったのは。


 突然家が吹き飛び、俺より早く気づいていたリオラは俺を庇うようにして抱きしめ、吹き飛ぶ。


「うぐっ……!」


 ごろごろと地面を転がり、木にぶつかってやっと止まる。

 俺は大きな怪我はなかったが、俺を庇ったリオラはそうは行かなかった。


「リオラ姉ちゃん、腕が!」


 左腕があらぬ方向へ曲がっている。

 それだけではなく、身体中に怪我をしているはずだ。


「だ、大丈夫だよ、このくらい……」


 そう言ってリオラはこの魔法の犯人を睨む。

 その先には、無駄にジャラジャラと装飾を付けて、これでもかと金をアピールしたような服装をしている男と、子ども。そして手のひらをこちらへ向けている赤髪の女。そして何人かの取り巻き。

 この女が家を、リオラを……!


「やってくれるね……!」


 ボロボロのリオラは立ち上がり、赤髪の女と対峙してーーー魔法使い同士の戦いが始まった。




 ☆☆☆☆☆☆




「その結果、リオラねえ……リオラは爆発して死んで、俺は捕まって赤髪の女の奴隷になりかけたけど、抵抗しまくったら嫌われて奴隷商人に売られたんだ。で、貴族がもっと嫌いになって、拒絶反応とか体も異常に反応するようになった」


「そうだったの……」


 ミーシアはぎゅっと俺を抱きしめる腕に力がこもる。

 あんな話をしながら、今ミーシアに抱かれても拒絶反応が起きないんだから人間って、俺の心ってよくわからない。


「なんだか、疲れたなあ……」


 ぽつり、と気持ちが溢れると、ミーシアはくすりと笑って頭を撫でてくる。

 その心地よさに、俺の意識は微睡に落ちていった。



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