第21話垣間見えるヤン

「すー、すー、……むが……〜〜〜!?」


 呼吸が阻害されたことにより、強引に意識を覚醒させられ飛び起きると、太ももに何かが落ちた。


「くぅ〜ん」


 そこには少しフェンリルに似た犬がいた。

 眠そうに目を擦っている。

 周りには誰もいないので、こいつが俺の顔に張り付いたんだろう。


「ん〜? なんでミニフェンリルがここに? サーシャが連れてきたのか?」


『それは我が説明しよう』


「うわっ!?」


 当然脳内に声が響いてきやがった……。

 ダンジョンのフェンリルだ。


『我らダンジョンボスのフェンリルは、宝を狙って入ってきた者と戦い、寿命を削って行く。そして、ある程度の時期で屠られたり、寿命を迎えた後に次のフェンリルが生まれる仕組みである』


「ほう」


『だが、長らく来るものがいなかったこの"絆のダンジョン"では我の寿命が削れることもなく、異例の長命になった。そのせいか、なんらかのバグで我が元気なうちに次のフェンリルが誕生してしまったのだ。この調子だと今後も敵が来ることはなさそうであるし、次の世代……我が子には自由な時間がある。なので我ができなかったこと……地上でたくさんの経験を積んで欲しくてな。貴様の右目を媒介としてこうやって視覚を共有させてもらっている』


「右目をくれってそういうことだったのか……」


 普通に眼球ぶっ潰されたり抉り取られたりすること覚悟していた。


『まあ、この子がいなければしていたな』


「ラッキーだったのか。……あと心を読むな」


『ということであるから、我が子にたくさんの体験をさせてやってくれ。もし我が子が死んだり、貴様が危害を加えようものなら、貴様は死ぬぞ』


 冗談だと思いたいが、声音からおふざけで言っていないのが伝わる。


「……仕方ないな」


 俺に拒否権はないようだ。


『それと、魔力の貧弱な貴様にピッタリの、魔力を流し込めば魔力操作を補助して増幅させる剣をくれてやった。我が子を守る時に活かせ。……では、我は消える。媒介を通しての念話は負担が大きいのでな……』


 そう言った後、フェンリルが何かを喋ることはなかった。


「……よし、お前の名前はフェルだ! よ〜しよしよしよし」


 人は嫌いだが動物は大好きな俺は、猫撫で声で身体を擦り付けていた小さなフェンリルのフェルを撫で回した。



「よしよし、可愛いなフェルは〜。成長してもおっかなくならないでくれよ〜?」


 なんて戯れていると、仕切りのカーテンが勢いよく開けられる。


「ノアっ! 起きたのね!?」


「むぎぇ……」


 ミーシアが抱きついてきて、これ以上ない力で締め付けられる。


「く、くるぢい……」


「本当に心配したんだから……!」


 声を震わせてミーシアは告げる。


「ぼろぼろのサーシャ様がのあさま♡をおんぶして出てきた時は生きた心地がしませんでした……。それから三日も寝ていらしたんですよ」


 俺が絡まないときの怜悧な表情とは違い、眉尻を下げて瞳に涙を溜めるルナトリア。 


「三日も……。サーシャは?」 


 そんなに寝てたのか俺。


「ご無事です。何本か骨折していましたが、日常生活には支障ないとのことです」


「そっか」


 それなら命を張った甲斐があるというものだ。

 こう、平民じゃなく貴族を命を張って守れたという、己のトラウマの克服に成長を感じるな。


「……他の女なんてどうでもいいのよ。私、本当に心配したのよ? もう二度と会えないんじゃないかって」


「うっ……」


 ミーシアの爪が皮膚に食い込む。


「不安で不安で仕方なかったの。あなたがいなくなるって考えるだけで体が震えて涙が出て来たわ。胸がぎゅっと締まるような感じがして痛くて、もっとああしてれば良かった、こうしてれば良かったって後悔ばかり頭に浮かんできたの」


「ぇ……あの、ミーシア?」


 様子がおかしい。

 どんどん声に抑揚がなくなり、早口で捲し立てるように喋り出す。


「だからね……? 私考えたのよ。どうすればノアが安全で、絶対にいなくならないかを」


「おい、落ち着けって」


 身体を捻るも、ホールドは解かれることはなく、よりキツく抱きしめられる。


「閉じ込めちゃえばいいんだって。命令で家にいるように命じて、絶対に人に会わないように。リリムと遊んでいれば一人ぼっちじゃないし……。リアやどこぞの貴族がベタベタしてるのも嫌だったのよね。うふふ、そうと決まればおうちに帰りましょう?」


 やばい、こいつマジでやる……!


「お嬢様ッ!」


 そう思ったとき、これまで聞いたことのないような大声でルナトリアが呼びかけた。


「ーーーっは」


 それを機に、締め落とすようなホールドが緩む。


「あれ、私なにを言って……」


 様子を見るに、ミーシア自身も自分が口走ったことが信じられないらしい。


「お嬢様。のあさま♡が事故に巻き込まれて不安だったのは分かりますが、冷静さを失わないように」


「え、ええ……ノア、ごめんね、痛かったでしょ?」


「あ、うん……」


 そうして軽く雑談をし、ミーシアたちは病室を出ていった。


 ミーシアの闇を垣間見たような気がした。









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