第27話分たれた道
「ノア。これはどういうこと? こいつらはノアのなんなの?」
無表情で俺を見下ろす元幼馴染カレン。
何を聞いていて、どういう意図なのか全くわからないが、怒り狂っているのは理解できた。
「なにがだよ、もっと具体的に言えよ」
怒る資格があるのは俺だろ。
謂れのない感情を向けられ、俺の声音にも険がでる。
「なにって……なんで女と一緒にランチなんてしてるのかって聞いてるのよっ!」
「……は?」
彼女面をするカレンに、俺は理解が及ばない。
「ねえノア。私ずっとあなたが応援してくれてると思って頑張ってきたの! あの時は辛い別れだったけど、ノアが待ってくれてるのを心の支えにして努力してきたの!」
あの日、あんなことをされて、応援なんてできるわけがないだろ?
「いや、何を言って……。応援? 前日に残るって約束したのに、突然裏切ったのはおまえじゃ」
「ノアもそうよね!? 剣聖って呼ばれて、国民からの知名度の高い私に釣り合うように努力してダンジョンの裏ボス攻略したんだよね!? 私すごく嬉しかったのよ。それで、ノアを迎えに来てみれば女四人とランチ……。訓練や魔物討伐は怖かったし、
涙を流しながら激情を吐露する。
しかし、俺には彼女が何を言っているか全くわからない。
「洗脳? ちょっと待て、ほんとにわけが……」
「ちょっと、意味わかんないこと言ってないでノアから離れなさいよ……!?」
「はぁ?」
ミーシアがカレンの肩を掴んだ瞬間、ぞわりとした震えと、視界が一瞬揺らぐような威圧感がカレンから発せられる。
思わず後退り、ミーシアは尻餅をついた。
「泥棒猫は黙ってなさい!」
ミーシアを睥睨し、こちらに向き直る。
「ノア、なんで浮気なんかしたの? その女なんかより私の方が強いし、綺麗じゃない。ノアは私一筋だってずっと信じてたのに……。私裏切られた気分だよ……」
暗く沈んだ声音が、たまたま俺が地面についていた手の甲を見た瞬間に弾む。
「あっ……ご、ごめんなさい! その奴隷紋……あなた無理矢理こいつらに従わさせられてたのね……! 私なんてことを……。そうよね、ノアが私を裏切るはずないものねっ! 疑ってごめんね、ノア……。そっか、強制的にこいつらと一緒にいさせられただけだったのね……。ノアも私みたいに、無理やりいろんなことさせられてたんだ……。でも、もうこいつらに従う必要はないわ。私と一緒に勇者パーティに入りなさい。これからはずっと一緒にいるのっ。それでねっ、これは秘密なんだけど、勇者パーティから抜けるつもりなの。だから脱退後は家を買って、一緒に住みましょ!」
「は?」
「なに? ノアが私の元にいるのは当然でしょ?」
自分でもびっくりするような冷たい声をカレンは意に介さない。
こいつは一体何を言っているんだ。
どのツラ下げて会いに来て、友人を貶して、終いには勇者パーティに入れ? 一緒に住む?
洗脳だとか、よくわからないことや認識のずれはありそうだが、こいつの態度がいちいち鼻につく。
「……意味わかんねえよ。
溢れ出る本心。
理性で過去の出来事に納得をさせて、感情に折り合いをつけて前を向いて生きていこうとしていたし、カレンと出会ったとしても、相当なことがない限り穏便に、傷つけることなく済ませようと考えていた。
だが、カレンの自分勝手な主張にそんな感情は掻き消えた。
「ぇ……何を言って」
「それで俺がお前を応援してる? んなわけねえだろ! 俺は勇者もお前も殺してやりたいくらい恨んだよ! だけど忘れようって、乗り越えようって努力してたのに……。俺がお前に釣り合う人間になるために努力したことなんて一度たりともないし、会いたいと思ったこともない!」
「う、嘘よ! ノアがそんなこと言うはずない!」
カレンは目に涙を浮かべて取り乱す。
「お前たちが今日も、これからも俺に関わらなければ過去は水に流していたのに……。平然と勇者パーティに勧誘してきたり、やっとできた信頼できる友人を傷つけられて……」
続きを言うべきかどうか、躊躇う。
言ってしまえば、もはやカレンとの関係の修復は決定的に不可能なるだろう。
ズキズキと胸が痛み、脈は早くなり、呼吸は荒らくなっていく。
まだ俺は心のどこかで、昔の優しくて思いやりのある少女であることを期待してしまっている。
そして、その判断を決めさせたのもカレンだった。
「そ、そんな……ノアは私のものだよね! 私はノアが好きだし、ノアは私が好きじゃん! なのにどうしてそんなに酷いことを言うの!」
洗脳されてたとしても、何年も経って会いに来たのは洗脳が解けたからのはずだ。
つまり、今対面している人格は本来のカレンであるということ。
俺の心の中の多くを占める感情は、悲哀だった。
「……変わったな、お前。昔は人のことが考えられる優しい人で、そこが好きだったのに……」
言葉を口にしながら、俺の目から涙がぼろぼろとこぼれる。
俺だって、こんな終わり方したくなかったよ。
「の、あ……」
ふる、ふる、と怯えるように首を振るカレン。
だが、もはや歩む道は分たれた。
「い、や……いやよ、やめてよのあぁ……」
「俺は、今のお前が大嫌いだよ……。勇者パーティ所属、剣聖のカレン様」
もう、対等に喋る関係性も、近かった距離感も、楽しかった思い出も、さよならだ。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
カレンは頭を抱え、滂沱の涙を流しながら発狂する。
「こ、こんなのノアじゃないっ! 別の誰かよ! 誰よ私を騙したのは!? いいえ違うわ、きっとノアもあのクズ勇者に洗脳されてたんだわっ! それかノアの周りに集まるメスが洗脳を!? じゃないとノアがこんな酷いこと私に言うはずないもの! あいつ早く殺さないと……。あ、ぁぁぁぁでももし本当のノアで、これが現実の出来事なら……う、うぁぁぁ……」
汗ばむ顔に髪を貼り付け、唇どころか身体全体を震えさせるカレン。
カチャリ、と腰の剣に手が伸びる。
不穏な気配を察するが、心臓が激しく脈打ち、息がしづらく、身体が上手く動かない。
「あは、アハハハ……アハ、あはは……。もう、ノアを殺して私も死んじゃおう。それで、天国で二人でラブラブ生活を送りましょう……?」
目視ギリギリの速度の踏み込みで、必殺の一撃が俺の首めがけて放たれた。
「ーーーそれは見過ごせないね」
ガガガ……!
一房に纏められた、雪のような白い髪が視界を舞う。
間一髪、俺の首の皮一枚を裂いてカレンの豪剣が停止する。
「大丈夫かい、ノア?」
俺の命を救ってくれたのは、剣聖に並ぶかもと噂される高潔なボクっ子剣姫、ユズリハだった。
「あり、がと……」
そこで俺は、度重なるトラウマの想起、過度なストレス、心労によって倒れた。
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文字数どうですか?
最近2500〜3000文字とかに増えてきているんですけど、長いですか?
最初の頃のように1000〜2000の方がいいですかね、コメント待ってます
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