第3話 榮倉幸三(2)
仁科からの命令を受けた榮倉幸三は、梟と接触するための情報集めをはじめた。
梟に左手を始末させる。
言うのは簡単だが、実際に梟と接触してそれを行動に移させるのは、そう簡単なことではなかった。
まず、どのようにして梟と接触をすればいいのか。
それが榮倉にはわからなかった。
知っていることは、この街に梟と呼ばれる伝説の殺し屋がいるという噂だけだ。
榮倉は数人の組員を使って、梟についての情報を集めてまわらせたが、集まってくるのは梟に関する伝説的な話ばかりで、実際に梟と接触する方法については誰も入手することはできなかった。
梟という殺し屋は、ただの都市伝説に過ぎないのだろうか。
そう思いはじめたころ、ひとつの情報が榮倉の耳に入ってきた。
その情報を榮倉に教えたのは、富野という男だった。
富野とはゴルフのカントリークラブでたまに顔を合わせる仲で、ラウンドを一緒にまわったりもしたことがあった。
その時も、たまたまカントリークラブのロビーで顔を合わせて世間話をしていただけだったのだが、思いがけないところで梟の名前が出て来たというわけだった。
富野が口にした情報は、先日殺された芸能事務所マキシマムの社長を暗殺したのは梟であったということと、梟と接触できるといわれているバーの話だった。
榮倉は眉唾ものかもしれないと思いながらも、富野から聞いたバーを探した。
歓楽街から少し離れたところにある、雑居ビル群の地下。
そこには看板も出ておらず、バーであることすらもわからない。
この辺は、昼間はオフィス街として賑わっている。
仁科組にとってオフィス街はテリトリー外であり、こんな場所にバーがあるとは完全に盲点であった。
榮倉は乗ってきたベントレーを路上駐車させると、運転手である若い組員を車に残して、ひとり雑居ビルの地下へと降りて行った。
薄暗い階段を降りていくと現れる分厚い木製の扉。その扉を開けると、そこは確かにバーだった。
「いらっしゃいませ」
入口に立っている榮倉に対して、口ひげのバーテンダーが声をかけて来た。
店内は数個のカウンタースツールとテーブル席がひとつあるだけのシンプルな作りであり、まだ早い時間のせいか、客足もまばらであった。
「こちらに梟と呼ばれる人間がいると聞いたんだが」
あくまで紳士的な口調で榮倉はバーテンダーにいった。
一瞬、バーテンダーの顔が曇ったように見えた。
しかし、すぐに表情を戻すとカウンター席の方へ目をやってから口を開いた。
「あちらのお客様が……」
口ひげのバーテンダーはカウンター席に座るひとりの男を掌で指示した。
「ありがとう」
榮倉はバーテンダーに礼をいうと、その男が座る席に向かって歩きはじめた。
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