第2話

 四歳の高校生としての初めての春が訪れた。


 長かった冬が終わり、暖かな風が頬を撫でるような季節になると、それだけで人は幸福感に包まれる。歩き慣れた高校への通学路でさえ今日はさながらシャンゼリゼ通りだ。足取りも自然と軽くなる。


 自分のことを普通の高校生だと呼ぶのは、自身の無個性を肯定するようでいささか気が引けるのだが、それでも俺は概ねほとんどの意味で普通の高校生だといえるだろう。超能力とか使えないし、芸能界から声とか掛かってないし、放課後はサイゼリヤに行きたくなる呪いにかかっている。


 しかし、どんな人間でも他人から見ればどこかしら普通ではない要素があるものだ。もちろんそれは俺とて例外ではない。


 俺の異常なところ。


 それは俺が四歳の高校生であるということだ。


 ただ、それは別に生まれてから千四百六十日しか経っていないという意味ではない。九年間の義務教育が定められているここ日本国において、そんなことが許されるはずもない。四歳の高校生というのは、当然、レトリックというか言葉遊びみたいなものだ。


 種明かしをしてしまえば、四年に一度しか誕生日が訪れない特殊な日付に生まれてしまったという、それだけのことだ。法的にはがっつり十六歳だし、始業式の今日からいっぱしの高校二年生である。


 ひらひらと音を立てるように、桜の花びらが制服の肩口に止まった。


 降り注ぐような桜並木のもとには、俺と同じように制服に身を包んだ学生や、真新しいスーツに着られているフレッシュマン、窮屈そうにランドセルを背負っている小学生などがちらほら見受けられる。


 スクールゾーンに指定されていることもあり、小さな公園沿いのこの道は車通りも少なく、晴れ渡る朝の静かな空気が漂う。聴こえるのは名も知らぬ小鳥のさえずりと遠くの子供たちの話し声だけ。いつも通りの朝だ。落ち着く。


「キシャ――――ッ‼ そこどいてください‼ 私の居場所なんですから‼ 猫ごときの分際で偉そうですね、全く‼」


 突如、朝の落ち着きを切り裂くような声が、公園の方から響いてきた。

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