第6話

 公園の角の交差点の辺りまで、目を細めてうっすらとした視界の中で歩いた。ここまで来れば充分だろう。奇声も猫の悲鳴ももう聞こえないし。……耳も塞いでおけば良かった。


 車の往来が無いかを確認するために目をパッチリと開ける。信号も横断歩道も無い小さな交差点を渡ろうと俺は一歩足を踏み出した。


 その瞬間、右側から猛烈な速度で飛び込んでくる人影に俺は気づいていなかった。


「ひゃっ!」

「うぉっと! あ、ちょっ――うわっ!」


 俺の身体はその人影にぶつかった衝撃でバランスを崩し、そのまま体勢を戻すことができず無様に尻もちをついてしまった。


「痛ててて……」

「あちゃー……またやっちゃった……」


 交差点の角に二人分の呟きが広がる。未だに倒れたままの俺の上には、人型の影が伸びていた。


 何とか立ち上がろうとしている俺の目の前に、すっと手が差し伸べられる。


「あ、えっと……大丈夫? はい、掴んで」


 見れば、その手の主は女の子だった。肩までかかったダークブラウンのポニーテールが春の日差しに煌めいている。


 その子のあまりの可愛さに、正直俺は見惚れてしまっていた。側に咲く桜よりも桜色に艶めく唇。外国人かと見紛いそうなほど明るいブラウンの瞳。瞬きするたびに揺れるまつ毛の長さに驚かされる。


 身長は少し低め。一五〇センチメートル前半といったところだろう。だが、そうは見えないほど手足はすらっと長く、アスリートのような健康的な美しさがあった。

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