第13話

 今までハキハキと喋っていた穂夏にしては珍しく、何やらモジモジしている。


「呼び捨てとか、か、彼氏みたいだし……その……照れるっていうか……」


 えー……めっちゃ初心じゃん……。


「別に呼び捨てだからってそんなことは無いと思うけど」

「でも緊張するものは緊張するの!」


 今どき中学生だってそんな純情な恋愛してないと思うぞ。大丈夫か、そんなんで。あんたもうすぐ結婚できる年齢なんだぞ。


「わかったよ。そんなに言うなら俺のことは君付けでいいよ。その代わり俺も呼び方変えるから。やっぱ無難に穂夏さん、いや、穂夏様か。よし、穂夏様にしよう。穂夏様もそれで異論は――」

「わぁ~~‼ も~~‼ ストップストップ‼ わかったから! 呼び捨てで呼ぶから! さんとか様とかやめて! むず痒くてしょうがないから!」

「ん? そんなに懇願されちゃしょうがないな。本当は呼び捨てなんて恐れ多いところだけど……」

「わざとでしょ‼ 絶対計算してやってるでしょ‼ もう翔馬君なんて嫌い‼」

「……君?」

「翔馬! 翔馬‼ わかったから! ちゃんと呼び捨てにするから! ニヤニヤしないで! そんな意地悪そうにニヤニヤしないで!」


 穂夏はプリプリと怒った様子で大声を上げた。顔が赤く染まって見えるのは、怒りのせいだけではないだろう。


「はぁ~~。もう今日は朝からヘトヘトだよ。お気に入りのハンカチは落としちゃうし、二回も人にぶつかっちゃうし……。絶対今日の占い最下位だったせいだ~」


 がっくしと肩を落としウジウジと呟く穂夏。どうやら世の乙女座の人にとって今日は受難の日になるらしい。まだ一日は始まったばかり。これ以上不幸が続かないことを祈るばかりだ。


 しかしそんな願いも虚しく、目の前にいる乙女座の乙女はすぐにもう一つの災難に見舞われることとなった。


「あれ……? 無い?」

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