第10話

「あー! 知ってる! 名前聞いたことある! この間四歳の誕生日だったって話題になってた人だよね⁉」

「え、ええ。はい。そ、その人です」


 だから顔が近いんだってば! 俺はどうどうと手で制しながら答える。


「えー! じゃあ本当に二月二十九日生まれなんだ! すごいね! 珍しいね! え、やっぱりさ、四年に一度しか誕生日が来ないって不思議な感覚なの? うぉー俺はまだこんなに若いぜー! みたいに感じるの?」

「別にこれといって特にそういった感情は沸かないかな。まあ、話のネタにはなるかなーって感じだけど」


 現にこうやって全く知り合いじゃなかった人に名前と誕生日を把握されているわけだし。


 俺はこの特殊な誕生日のせいで、学校内じゃちょっとした有名人だ。


 この間の誕生日のときも、クラスの奴らが「四歳おめでとう~」などと手作り横断幕を掲げて必要以上にバカ騒ぎをしたせいで、学校中に四歳の高校生結城翔馬の名が知れ渡ってしまった。おかげで悪ノリした名も知らぬ先輩に、誕生日プレゼントと称して幼児向け番組のキャラクターのぬいぐるみまで渡されてしまったのだ。勘弁してほしい。いつも元気なにゃんにゃんもくーたんも知ったこっちゃないのだ。


 まあ、もちろんうるう日に生まれたことのアドバンテージもある。新学期の自己紹介は話すネタに困ったことが無いし、そのファーストインパクトのおかげで気軽に話しかけてもらえるので、友達作りは最高のスタートダッシュが切れる。


 左利きやら絶対音感やら面白がられる特徴といえば他にも色々あるが、うるう日生まれの珍しさは正直規格外だ。俺以外に二月二十九日に生まれた人間を、俺は一人しか知らない。

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