第17話
目線を上に上げれば、ベンチに向かうようにして立っている人影が見える。
謎の格闘ポーズに袂が揺らいだ和服姿のシルエット。
あいつだ。絶対あいつだ。
弱々しい公園の街灯の光では、ここからその顔を確認することはできないが、見なくてもわかる。絶対に今朝見かけた和装の女だ。あのレベルの不審者がそう何人もいてたまるか。
「無視ですか! また無視するんですね⁉ いいでしょう! どうやら朝は手を抜きすぎたようですね。今度はそうはいきませんよ‼ さあ歯を食いしばってください‼ グーで行きますよ、グーで‼」
和服女はそう叫ぶと、三毛猫に向かって大きく拳を振りかぶる。シンプルに殴りにいくんだったら、拳法まがいのあの構えに意味は無いのではなかろうか。
流石にこうなると、黙って見ているだけというのは気が引ける。なんとかしてあの猫を助けたいところだ。
しかしこの状況、俺一人でどうにかなるのか?
だが仮に今ここで警察に通報したとしても、不審者を一人牢屋にぶち込めるだけで、猫を救うには間に合うまい。一応周囲を確認してみるが、今は黄昏時。子供たちが遊ぶには遅すぎ、サラリーマンがため息をつきながら缶ビールを煽るには早すぎる時間帯だ。相変わらず目撃者は俺一人しかいないようだった。
つまり、猫を助けることができるのは俺だけ。俺一人でどうにかするしかないのだ。
「……よし」
今度という今度は言い訳をするわけにはいかない。軽く息を吐き覚悟を決める。
猫を助けるため、俺は腰よりも低い位置にある、飛び出し防止程度の高さの鉄柵を乗り越えようとした。
しかしその刹那、俺の脳裏にいつもの暗い炎が浮かんだ。
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