第16話:懺悔と援軍
***
「来てはいけません!」
僕がゴーレムに追い付くと、王女が叫んだ。
「僕だって逃げたいよ! だけど」
(ここで逃げたら僕はもう二度と夢を見れなくなってしまう気がするんだ)
「僕、これでも勇者だから」そう言って笑って見せた。
しかし実際問題どうしたものか。
僕に戦闘技術も経験もない。
そして一番痛いのは武器を持っていないことだ。 修学旅行でこんな物語みたいなトラブルが起こるなんて、日本人に想定できるはずがない。
なら残る選択肢は、
「なんとか隙を作るから、なんとか逃げて!」
「まさかノープランですか……?」
「絶対助けるから!」
僕が一歩踏み出すと、ゴーレムも一歩下がる。
膠着状態が続いた。
(迂闊に近づけない……)
相手が武装していないことがせめてもの救いではあるけれど、ゴーレムの鋭い爪が王女ののど元に添えられているから無茶な突撃も出来ない。
せめて王女を引き離すことができれば、と考えても冴えたアイディアは浮かばなかった。
(どうしたらいいんだよ)
「勇者様」
王女が淡々とした口調で言った。
「お逃げください」
「私は大丈夫ですから」と彼女は諦めたように笑った。
「それと謝罪を」
「勝手な私の、この世界の事情に巻き込んでしまったこと。 あなたの要望を理解しきれなかったこと。 あげればキリがありません。 申し訳ありませんでした」
昔からバカにしていた。 バトル描写で長々と会話する登場人物と、それを律義に見守る敵。 そんな間抜けな光景がリアルでもあるんだなあ、と他人ごとのように感心した。
「私に何かあってもあなたを元の世界に帰す手はずになっていますから、ご安心ください。 ですから、どうか」
「嫌だね」
この世界に来てから色々あったことを想い出す。
渇望した物語のような世界に来れたことを喜んだこと。
想像と違いすぎて勝手に失望して引きこもったこと。
可愛い相棒が出来たこと。
学校で王女にたくさん助けてもらったこと。
今思えば意外といい思い出だ。
僕は王女が苦手だった。 固いし、真面目だし、冗談が通じないし、頑固だ。 けれど死んでも、どうなっても良いというほど嫌いじゃない。
「絶対助ける」
策なんてないさ。
震えはいつの間にか止まっていた。
「勇者様!!!!」
その時、後ろから声が飛んできた。
***
「こっちだ!」
破壊の跡を辿ってゴーレムを俺たちは追っている。 まるで道しるべのように続くそれはワザと付けたようにも見えるが、今はラッキーと思うしかない。
「屋上か?」
「そうらしいな、先にこれ渡しとく」
階段を上がりながら俺は背負い袋から剣を取り出した。
「俺、剣なんて使えないぞ」
「たぶん勇者様は武器を携帯していない。 追い付いたら渡してくれ」
「お前はどうする?」
策らしい策なんてない。
「なんとか殿下とゴーレムを引き離す!」
「大丈夫か……?」
けれど俺は成功するという確信がある。
不安があるとすれば、誰かが疑うことくらいだ。
「さあ、追い付くぞ。 そっちは任せた」
「あああ、もう! やってやるよちくしょう!」
「勇者様!!!!」
対峙するゴーレムと勇者。
カリストロの投げた剣が空中を舞った。
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