第三章~転校生と勇者の悩み~
第12話:クラスメイトとしての距離感
転校に際し、王女が付いていたことで佐々木は余計に注目を浴びていた。 勇者の存在に関する噂は広まっているので、もしやと察してはいるものの触れていいのか分からないといった様子だ。
「アリストテレスさんの知り合い?」
俺は努めて興味津々に尋ねた。
「はい、まだ公表されていませんが彼が噂の勇者ですよ」
変に静かな教室に大きくない王女の声が響いた。 そして止まっていた時間が動き出したかのように教室がざわめいた。
横目で俺たちとは離れた席に座る佐々木に、周囲の生徒が話しかけている様子が見える。
「全く関わらないのかと思いました。 ありがとうございます」
「まあ、これが王女アリストテレス様の隣に座る者としての務めかと思いまして」
「なんですかそれ?」
可笑しそうに笑う王女はいいとして、あの空気だと佐々木がボッチになりそうで可哀そうだった。 それに積極的に世話を焼くのではなく、一クラスメイトとして可笑しくない範囲であれば関わることは嫌じゃない。
「では放課後、勇者様に学校の案内をお願いできますか?」
「それは断る」
今日の予定はゴーレム造りで埋まっているのだ。
その日は放課後まで特にトラブルもなく過ぎた。
しいていうなら他の教室から見物人が来たり、クラスメイトが佐々木を質問攻めにしたり、王女はとても忙しそうだった。
「おお! 素晴らしい!」
一方、俺はカリストロお手製の衣装に大満足だ。
「なあ、勇者の話を」
俺が頼んだのは浴衣だった。 ベタにメイド服やセーラー服と悩んだが、それらはこの世界にも似たようなものがあるので今回は見送った。
「なあ聞いてる?」
カリストロに言わせればただの民族衣装だろうが、俺としては見ているだけでも楽しい逸品である。
「お!い! もう協力しないぞ?」
「ああ、ごめん。 あまりの素晴らしさにトリップしてた」
今後ともカリストロにはお世話になりたので、試着は後にして俺は勇者と疲弊した王女のことを話す。
「俺だったら助けてあげるのに! ちくしょう! 席代わってくれ~」
代われるものならこっちからお願いしたいよ、俺はそう言いたい気持ちを堪えて苦笑いするしかできなかった。
***
王女様の計らいで学校に入学してから数日経った。
「勇者様、よろしければご一緒にお食事を」
「勇者様、握手してください」
「勇者様」
「勇者様」
「勇者様」
「勇者様」
「勇者様」
「勇者様」
「勇者様」
「勇者様」
初めは学園編が始まると期待に胸を膨らませていた。 同じクラスにフランツくんがいることも嬉しかった。
しかしもうノイローゼになりそうだ。
「ああお前だけが僕の癒しだよ~」
間借りしている王城の一室で、僕はフォレストウルフの子供を撫でまわしながら呟いた。
時間があれば勇者様と多くの人が僕に話しかけてくる。 目がギラギラしている人もいるし、自己紹介されすぎて誰とも仲良くなれない。
「みんな勇者としてしか僕を見ていないんだ」
もしくは僕を経由して王女のコネを得ようとしているか。
たとえ人気者でなくとも、元の世界のような何の打算もない関係はすごく貴重だったんだと実感した。
「どうすればいいかな?」
「わふ?」
この世界で僕が相談できる相手――思い浮かんだのは一人の青年だった。
「ダメダメ。 フランツくん忙しいって言ってたし、それに学校で馴れ馴れしくするのは……迷惑だろうなあ」
人間関係は複雑だ。
元の世界の学校でいえば部活では仲が良いけど、クラスでは話さないということもあった。 この世界の価値観が分からないうちは、フランツくんに嫌われるようなことは避けたかった。
「次点で……」
残るは王女様しかいないけれど、悩みを打ち明けるほど信頼もできていなかった。 それに女子に弱音を吐くのは、思春期の男子としてはハードルが高い。
「友達が欲しい」
「わふ~」
これからどうしたらいいか、
その答えはきっと自分の中にしかない。
***
「ん! ん! んー? んん!」
今日も俺は貴重な青春を物造りに費やしていた。
浴衣を着た少女が様々なポーズを取って見せてくれる。
俺は感動に打ち震えていた。
「素晴らしい! 思っていた以上に、良い……」
しかしカリストロが「なんかさ」と言って水を差した。
「動きぎこちなくないか? ん、としか喋らないし。 異常か?」
「いやこれで正常だよ」
この世界のゴーレム造りはこれでも革新的なレベルだ。 物語のようにほとんど人間のような生命体を生み出す技術は存在しない。
「そこを改善するために国家級の技術と希少な素材が必要なんだ」
「そっか~。 見た目が良いだけに違和感あるけど、無理なもんはしょうがないな」
ゴーレムコンテストにはこのまま提出するつもりだ。
そしてその後が俺にとっては本番になるだろう。
「まあそのうちなんとかするつもり」
「酔狂すぎるだろ……」
実は俺にはその技術にも素材にも当てが、国家級のコネがあるのだ。
「全てはこの時のために」そう言って俺は一人ほくそ笑むのだった。
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