第11話:勇者の仲間


「さて佐々木くん、最終日は君にプレゼントがある」


 朝食を食べ終えた俺は、遠足を待ちきれない子供のような佐々木を連れて町へ向かった。


 先日の観光であまり見ていなかった、裏通りを行く。

 物語のように浮浪者や盗賊紛いがいるような治安の悪さはない。 ここでは一部の変わり者に需要のあるマニアックな店が立ち並ぶ。


「ここだよ」


 目当ての建物から動物の鳴き声が聞こえてくる。

 『魔女の使い魔』という店だが、日本でいうペットショップだ。 ただし扱うのは、


「動物?」

「いや、ここは魔物の専門店だよ」


 店に入るとゲージや牢に入れられた様々な魔物が見えた。


「プレゼント? 魔物をもらってどうしろと?」

「勇者にはパートナーがいるだろう?」


 本来なら困った美少女を助けて仲間にしていくのがテンプレだが、現実にそんな都合の良いことはない。 もしも佐々木に仲間ができるとしたら王女が見繕った相手だろう。 それが出来るのもいつになるか分からない。

 ずっと一人はさすがに佐々木が可哀そうだ。


「店主、予約してた子を連れてきてくれる?」


 それに日本でもアニマルセラピーなんて言葉があるくらいだ。 きっと可愛いもの(魔物)と触れ合えば佐々木のストレスも軽減されることだろう。


「子犬?」


 それは真っ白いフォレストウルフの子供だ。

 魔物の危険度は級数で表されており、フォレストウルフは九級とかなり弱く見た目も愛らしいので人気がある。


「フォレストウルフの子供だよ。 世話できそうならこの子を贈りたいんだけど、どうかな? ちなみに王女様の許可はもらってるよ」

「うわあ、ふわふわ! かわえ~」


 どうやら佐々木は気に入ったようで、今までで一番表情が緩んでいた。

 ちなみにウルフ系は様々な種類が存在し、強さもまちまちだ。 しかし元は全て同じ種であり、環境や食事によって姿を変えると言われているので育て方次第では本当に勇者のパートナーとなれるかもしれない。


「ラブルくん、ありがとう」

「気にしないで。 喜んでもらえたようで何より」


 これから俺と佐々木は王女を介して関わることになるだろう。 だからせめてもの餞別のつもりだ。


「じゃあその子に必要なものを買って、今日は終わろうか」


 そう言うと佐々木は驚いた表情をしたが、俺は気づかないふりをした。





「じゃあ元気でな」


 買い物袋が積まれた馬車に佐々木は乗り込んでいく。 しかし彼は振り返って言う。


「あのさ……これからも俺にこの世界のことを教えてくれない?」


 佐々木には申し訳ないけれど、俺には俺の生活があるし、そもそも同郷のよしみというだけの関係でこれ以上世話を焼く気にはなれない。


「ごめん。 実は俺、まだ学生だから結構忙しいんだ」

「そうだったんだ!? 大人ぽいから成人してるかと思ってたよ」

「それって老けてるってこと?」

「いやいやいや、良い意味で!だよ!」

「まあアリストテレス様とはクラスメイトだから、何かあったら伝言してね」


 その言葉に佐々木は少し安心したようだった。


「じゃあ」

「うん、おかげで三日間本当に楽しかったよ。 ありがとう! またね!」


 俺は明るく手を振る佐々木に何も言わずに手を振って見送った。


「さってと!」


 俺は大きく伸びをして、仕事を終えた余韻に浸る。


「帰ってゴーレム造りでもしますか!」


「フランツくん」


 しかし俺はまだ解放されないらしい。

 物陰から王女が現れた。


「まだ見てたんだ。 終わったよ」

「お疲れ様でした」

「じゃあ俺はこれで」

「少し話がありますので、近くのお店に入りましょう」


 王女から言い知れぬ圧を感じた俺は「はい」と無駄な抵抗も許されず連行されるのだった。



 佐々木と別れた後、俺は王女からの質問攻めと遠まわしのお説教で疲れ果てた。


 濃すぎる三日間だった。


 しかしこれでようやく解放された。

 学校できっとカリストロに色々と問い詰められるが、今の俺にとってはそれすら愛すべき日常と思える。


「おい、フランツ!! お前こないだ王家の馬車に乗って何してたんだ?! そしてこの三日間どうして学校をサボりやがった? キリキリ吐いてもらうぜ~」

「ありがとう」

「はい? 何の感謝だよ?」

「いや久しぶりに会えてうれしくてさ」


「お前大丈夫か?」とカリストロが本気で困惑している。 確かに自分で言っていてすごく気色が悪くなってきた。


「いや、すまん。 色々あって頭が混乱してる」

「うん、なんかお疲れ」

「……うん、落ち着いた。 それで衣装の件だけど」

「初っ端それかよ!」


 そんなやり取りをしていううちに、鐘が鳴った。


 ふと気が付く、優等生の王女がいないということに。


 そして教室の扉が開き、教師と王女――


「突然だが転校生を紹介する」


――黒髪の青年が、


「初めまして、佐々木幸太郎です」


 見覚えのあるウルフの赤ちゃんを抱きながら頭を下げた。


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