第10話:勇者の最強でウルトラな必殺!!!


『灯れ』


 魔力を乗せた言葉によって俺の指に小さな火が灯る。 佐々木はキラキラした目で見つめ、拍手して興奮した様子だ。


「すげー!!!!」

「どうも。 魔法は本来イメージだけでも使える。 けど言葉に魔力を乗せることで強力になったり、イメージしやすくなったりするんだ」

「おお、異世界っぽい設定キタ」

「指南書に記されている言語を指でなぞりながら、魔力を込めると魔法が使えるからそれで感覚を掴もう」


 佐々木が恐る恐る指を滑らせ「光れ!」と叫ぶと、


「光った!!!!」

「おめでとう。 これで君も魔法使いの仲間入りだ」


 これは魔法を志すものがみな通る道だ。

 使うだけなら簡単。 しかし極めるには一生研鑽し続けなければならないほど奥深いのが魔法だ。


「さあ、どんどんやってこう」

「はい師匠!」




「はい、じゃあそこまで」


 佐々木はさすが勇者らしく魔力量が多いらしく、いつまでたっても終わりそうにないので強制的に中断させた。

 不満そうだが、こちらにも予定がある。


「魔力を流す、という感覚はつかめたと思うから次はこれをやる」


 俺はそう言って、背負い袋からシンプルな木剣を二本取り出した。


「勇者といえばこれでしょう。 剣術、それも勇者にしかできない剣術をやろう」

「勇者の僕だけの……特別な……ユニークな……」


 佐々木は自分の無双するカッコいい姿を思い描いているのだろうが、これから教えるのはそんないいものじゃない。 端的に言うと、勇者という才能をゴリゴリに利用するただの力技だ。


「剣を適当に構える」


「剣を適当に振りかぶる」


「いっぱい魔力を込めて」


「振り下ろし、対象に当たる際に込めた魔力を放出する」


「それだけ。 簡単でしょう?」

「いや簡単そうだけど……そんなんでいいの? 素振り千回!とか」

「今はいいよ、時間ないし」


「まあやりたいならやってもいいけど?」と言うと佐々木は首をぶんぶん振って剣を構えた。


「よし、やってみよう」


 佐々木の剣を受ける。

 最初はふらふらと、しかし剣の技術は変わらないが段々と魔力を上手に込められるようになっていく。


 重く、鋭く、殺傷力を増していく。


 受けるのが辛くなってきたが、俺が根を上げる前に剣が弾け飛んだ。


「今のは良かったね~」

「うわ、ごめん! 大丈夫か?!」

「大丈夫、大丈夫」


 俺は笑って「じゃあ試しに木に打ってみようか」と提案しつつこっそり治癒した。


「技名叫ぶとより強い一撃になるかも」

「技か……よし、分かった」


 佐々木が眼を瞑り、静かに構えた。


 剣が振り上げられる。


 彼の眼が開き、叫んだ。


――必殺!最強ウルトラ勇者剣!!!


 込められた多量の魔力が眩い光を放った。


「すごいね、さすが佐々木くん」

「おわ~」


 木が雷が落ちたように割れていた。

 彼の木剣は耐えきれなかったようで束の部分以外は消し飛んだらしい。


 これが勇者、というか召喚の影響で魔力を備えた者にしかできない必殺技ぽいただの魔力を込めた振り下ろしだ。


 ちなみに俺は転生者だけど、魔力量は並である。



「なんて事をしてくれたんですか」


 二日目の夜、勇者が寝静まった後焚き火にあたってのんびりしていたら暗闇から王女が現れた。


「登場こわっ」

「魔法も剣術も一流の教育を受けてもらうつもりだったのに……あなたのせいで台無しです」


 王女は勇者を世界を滅ぼすような相手と戦える戦士にしたかった。 その予定を崩されてかなりご立腹の様子。


「そもそも勇者がいなくなったら意味ないだろ? まずは興味を持ってもらわないと」


 せっかく異世界召喚されても蓋を開ければ期待していたテンプレはなく、楽しい魔法もまずは座学をしっかりなんて言われたら帰りたくもなる。


「俺の目的は彼のストレス解消だから。 その先のことはアドバイザーの仕事じゃない」

「……世界が滅んだとしても後悔はしないと?」

「そんなの分からないよ。 俺は預言者じゃないんだ」

「あなたは彼を勇者として見ていないんですね」


「もういいです」ため息混じりに王女は言って、俺の隣に座り焚き火で暖まった。


 俺は佐々木に勇者として戦って欲しいなんて絶対に思わない。

 彼が世界を好きになる、王女と仲良くなるためのアドバイスはするけれど世界を救って欲しいなんて願うつもりはない。


 他の世界の人間の命を懸けさせる頼なんて間違っている。

 もしも関係のない誰かを頼らなければ滅んでしまう世界なら、そんな世界は――




――滅べばいい。。。。


 

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