11:木曜日 その3
ニシは崩れ落ちるようにベンチに腰掛ける/給湯室横の自販機コーナー/買った缶コーヒーは直接手に持つには熱すぎる/無意識下に魔導が発動し皮膚を保護。
月曜日から=犯人捜査の手がかり/なし。仕事の技量/格段にアップ/ハセガワの評価「まるで社会人みたいに気が利くね、ニシ
藤堂社長との契約は1週間=土日は休みなので実質的に金曜日まで。
来週まで引き伸ばしたとしたら常磐興業の方の仕事を休まなければならない=無意味なサラリーマン生活を引き伸ばすことになる/絶対に嫌だ。
ニシは魔導を発動した。コーヒーを人肌まで冷却=猫舌/しかし犬派のニシ。
魔導なし怪異なし銃なしの生活=平和と安定の生活=暇。
仕事は多い/サラリーマンの給料も悪くない=しかし刺激がなかった。普通の仕事のほうが子どもたちが安心する、という気もしないでもない。自分に向いているかと言われたらノーだ。
ぬるいコーヒーを口にする/自社製品「活力コーヒー」=カフェインの含有量が法律ギリギリ&魔導で更に効力を高めている=飲んでも大丈夫なのだろうか。
ぬるくて甘いコーヒーを飲みこむ/体内で魔導で改変された成分と自身の魔導と拮抗している感触=もう次は買わないと誓う。
一気に飲んでしまおうと缶を傾ける/視界の下半分が缶コーヒーと藤堂製薬のロゴ=上半分に人影が写った。
40歳くらいの男性/たぶん中途採用組/街の背景にいとも簡単に溶け込んでしまいそうな無個性が個性だというふう/社会の歯車であることこそがアイデンティティといった企業戦士。
ぴりり。
探査魔導に感あり=このサラリーマンはマナへの感応力がある。
中年サラリーマン=自動販売機の前でしゃがむ/商品を取る/回れ右=「ちょっとすみません」/ニシが立ちふさがった。
「な、なんだ君は?」
「魔導、使えますよね」
「……だったら何だって言うんだ。というか君こそいきなり失礼じゃないのか」
逆ギレ/シラを切っている? こういう尋問はリンのほうが得意そうだなあ=最近あの無邪気な鉄砲玉に会っていないので懐かしい。
「自分は、ええと、魔導士です」スーツのジャケットの中から白色の腕輪=最高位の魔導士を監視するためのGPSデバイスを出して見せた。「藤堂社長の依頼でいろいろと聞いて回っているんです。魔導で悪いこと、していませんか」
中年サラリーマン=目をしばたかせる/人が考え事をしているときの典型的な癖。
「魔導、ねぇ。確かにこのトンチンカンな力のお陰で潰瘍に飲み込まれても生きて出てこれたけど、別段便利と思ったことは無いねぇ。5年前に検査されたときも“
違う=この人は犯人じゃない/緑クラスのマナへの感応力はせいぜい宴会芸でスプーンを曲げられる程度/魔導士が社会に認識される以前の
「すみません、たぶん自分の勘違いでした」
「本当にいたんだな、
皮肉たっぷりの物言いだった。
「別に自分は、天才とかじゃ。魔導が使えるだけです」
「それを天才ってんだよ」怒っている──否、鬱憤ばらしのため。「緑程度の感応力じゃ役にも立たない、むしろ周囲からはこの力のせいで白い目で見られている」
「魔導士への勘違いはすでに解消されたはずです」
「お前の中だけだそれは。社会を広く知るべきだな。魔導の天才はそうやって周りから必要とされてチヤホヤされて英雄になるが俺たち凡人はなにもかも諦めて我慢して生きなきゃいけない」
「俺だって努力して──」
「はいはい、どいたどいた。俺たち凡人は忙しいんだ」
中年サラリーマンはニシを押しのける/言いかけた言葉を打ち消してオフィスの中へ消えた。
右手=スチールのコーヒー缶が縦にひしゃげている。
無意識下の魔導の発動/感情が高ぶったせい=力と感情が難しい子供らしい失敗。
ニシは適当に缶のゴミをほおりなげた/魔導でゴミ箱の投入口へ誘導して捨てた。
魔導の天才だなんて思ったことがない/周囲からの評価=原爆1発分の戦力。
マナへの感能力は人一倍=ゆえに努力もした。得意でもない物理学を勉強したおかげで召喚やら重力を制御する魔導を扱えるようになった。
むしろ=善人たれ/人を凌駕する力があるのだから
魔導を指導してくれた近所のオヤジ=善人たれ「悪い魔導士を懲らしめなきゃならん」
資金的な援助をしてくれている地主のオッサン=善人たれ「いつか常磐は暴走する。それに歯止めをかけなきゃならん」
藤堂社長=「魔導士の犯罪を野放しにしてはおけないだろう」
この力は面倒なことばかり=周囲に期待されてばかり。
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