4:月曜日
「
「不埒な野郎と一緒にせんでもらいたいな。やつがマネしたんだ」
藤堂社長は唸りながら話すのが癖らしい。言葉の節々に熱が籠もっている。
「……すみません」
「なあに、謝ることじゃない。悪いのは奴だ。麻薬って言っても飲み薬っていうわけじゃない。塗り薬、アロマオイル、ミネラルウォーター。どれもうちの商品だが分子配列をいじって幻覚作用を引き起こす。だから薬事法に引っかからない」
まあ、たしかに=首肯/化学的には合法だ。その化粧製品も法律スレスレということは黙っておいた。
「でも警察に相談したらいいでしょう。薬事法ではなくて魔導不正使用取締法がある」
「そんな大事になったら会社の信用が落ちてしまうだろう。マスコミにセンセーショナルに書き立てられ、常磐に追いつくべく築きあげた会社が失墜してしまう」
ああ、そういうことか。
「お前さんにも関係することだ」藤堂社長が唸った。「魔導産業の印象が悪くなったら、魔導士のお前さんも風評被害を受ける。人間ってのは弱っちい生き物で、善と悪のふたつでしか物事を捉えられない。魔導士の事件があれば魔導関連全てが悪になっちまうのさ」
ぐうの音も出ない正論=左腕に通した乳白色の腕輪/
「理解しました。協力しましょう」
「分かってくれて何よりだ。まずは、その腕輪を外してもらえるか。目立ってしょうがない」
腕輪はそもそも目立たせるのが目的なのだからしょうがない。
「自宅以外で外すと、俺、警察のお世話になります」
「身につけておくだけじゃだめなのか」
だめじゃない。しかし規定では腕に通しておくことになっている/規定違反は気持ち悪いがしょうがない=根っからのまじめ性。
高速詠唱。声なき声を唱えた。
ニシの手の中にひと束の紐が出現した。紐を腕輪に通して首にかけた/着慣れないスーツの内側に隠す。これなら問題ない。
「まるで犯罪者、だな」
藤堂社長が唸った。
「どっちもです。あの魔導災害の後、魔導士とくに
「んなもん、人にいいように利用されているだけじゃねぇか。ま、かくいうワシも利用させてもらうわけだが。じゃあ今日から1週間、よろしく頼む。これが前金だ」
ポン。ローテーブルに白い封筒が置かれる/分厚く膨らんでいる。
「領収書、書きましょうか」
ニシは封筒を持ち上げて中身を確かめた/何かと電子取引をする現代で現金の束は久しぶりに見た。
「ガハハ、そんな事したら税理士たちがだまっちゃおらんだろ。これはワシのポケットマネーだ。10万円ある。無事解決したら100万円を追加で払おう」
悪くない報酬/
「計画なのだが」藤堂社長の瞳がサングラスの向こう側で光った。「企画営業課の新人社員として潜入してもらう。うちの会社はこのビルの中で企画から開発から製造、出荷まですべてを行っているんだが、企画営業課に潜入するのは、その全ての部署を回ることになるいい機会だと思ったんだ」
「わかりました。善処します」
「よろしく頼む。今日は新人研修に参加してくれ。自然に会社に馴染めるように、な」
そこまでしないといけないのか。
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