14: 金曜日 夜 その1

「それでは! みなさん! 常磐興業 保安隊隊長こと、わたくし不肖リン、乾杯の音頭とともに豪快にいかせていただきます!」

 ばっかじゃないの=カナが頬をふくらませる。

 会社の名前を出すんじゃない、ちびっこ隊長。あーあやっぱり店員さんに注意されちゃったじゃない。しかも身分証まで要求されて。あのちんちくりん体型じゃ中学生に間違われてもおかしくないか。

 駅前の居酒屋/早い時間から華金の酒宴を楽しもうという客たちでごったがえ/あえて照度の低い電球に照らされ、酒の肴が次々と運ばれてくる。

 カナは同じ宴席にいるにも関わらず壁と壁に挟まれた角で、藁の座布団にぺたんと座ったまま黙っていた。

 酒なんて──カナは眉を細めた。

 宴会といえば、養子に行った先の神社のお祭りのときぐらい/もっぱら上座に座って氏子さんたちの挨拶を受ける──その程度。

 結露したグラスを手に持ちカシスオレンジを口に含む/たかがエチルアルコールに甘味料が含まれているだけの飲み物/化学式はC2H6O/化学の基礎。

「ようし、みんな。席替えだ!」

 ちびっこ隊長の鬨の声/よく通る元気な声=「モテそう」

 各々がグラスを手に立ち上がる/がやがやと行ったり来たり。

 女性陣はちびっこ隊長と総務の林さん、林さんの友達が2人──名前は何だっけか。

 男性陣はケンさん、ジュンさん、ジュンさんの友人らしき男が3人──どれもニシとは正反対のチャラい感じ。

「ねーねー、君、カナちゃんでしょ。お話しよ」

 チャラ男その1がカナの横に座った/わざわざ藁の座布団を寄せてきた。

 うざいし馴れ馴れしいし酒臭い/しかし大人としての世間体もあるのでとりあえず会釈だけをしてやった。

「なーに飲んでるの? カシオレ? あは、美味しいよね、それ」

 チャラ男その1はケラケラと笑いながら、エタノールと炭酸水の入ったグラスを空にした。

 安っぽいコロンとアルコールの饐えたニオイが耳にかかる。カナはチャラ男と顔を合わせることなくカシスオレンジをちびちびと口につけた。

 男の言葉───酔っているせいか呂律が微妙に回っていない/回っていたとしても聞くつもりはない。

 言い寄ってくる男をどうにかして欲しい。ちらりとリンを見たが、一番見た目がマシそうな男を捕まえてニコニコ話している/客席の反対側。

 ケンさんやジュンさんは総務の林さんとその女友達と楽しそうに話している。

 どうして楽しそうにできるのか/思案=アルコールのせい。脳が麻痺して饒舌になっている。

 あるいは=これが普通の人ということか。女と男は求め合うのが普通。生き物として人間としてパートナーを求めずにはいられない。

「私は───」

 そんなのは知らない/普通の人間になることを諦めた=子供の時からの座右の銘リフレーション追憶リバイバル

 常人との差別化=乳白色の腕環/最高位の魔導士を監視するためのGPSデバイスが揺れた。

「んんん? カナちゃん、何って? あ、それ何? 腕輪? すっご、浮いてるんですけど。どんな仕組み?」

 会社の人達は皆いい人/魔導士に理解がある=むしろ頼ってくれる。

 しかし/やっぱり、この気持ちをわかってくれるのはニシだけ。

 チャラ男が何か話している=無視。

 平常心を保つ=H、He、Li、Be、B、C、B───周期表を暗唱/ぶつぶつと。

 嫌な女/常識がない女=思われたってかまわない。普通じゃないのだから、かまわない。

「私は、ニシのことが好きだ」

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