第2話(3) 非公認新聞サークル会長 青山 桐子

 周りの冷たい視線を感じながらも、午前中の授業を無事に終えた私は、食堂でランチを食べていた。朝ごはんを食べ損ねたので、大盛りのカレーライスを頼む。

 誰も近づこうとしないので、人目を気にせずバクバク食べていたら、不意に頭上から声がかかってきた。

「隣、いいかな」

 見上げてみると全然知らない生徒だった。紺色のタイをつけているから2年生だ。ショートカットに、切れ長の目をした、ボーイッシュな印象の、すらりと背の高い人だった。トレーにはうどんが乗っている。何も乗ってない、素うどん。

 私が返事をする前に、その2年生はすっと隣に座り、いきなり言った。

「君が黄崎アリサだな。2年生の間でも噂になっているよ」

「えっ」

「黒百合に目をつけられて、入学早々、灰学生サンドルになったという異色の特待生。それでもめげずに堂々と授業に参加し、食堂で大盛りカレーをモリモリ食べられるとは、君、なかなか肝が据わっているな」

「な、なんですかいきなり……初対面ですよね?」

「ああ、名乗るのを忘れていた。私は青山あおやま桐子きりこ。新聞サークルの会長さ」

「新聞サークル……? 新聞部じゃなくて?」

 この学園には、生徒会フルール・ド・リス直属の「新聞部」があり、月に一度、生徒会フルール・ド・リスからの広報や、学内の記事、文芸コーナー、コラムなどが掲載された新聞を発行している。まだ1回しか読んだことないけど、かなり本格的なつくりで驚いた。また、新聞部に入れば生徒会フルール・ド・リスとお近づきになれるチャンスも増える、という期待もあり、入部希望者はかなり多い。

 反面、生徒会フルール・ド・リスのメンバーは、新聞部を自分の姉妹にはしたがらない、という噂もある。広報係に姉妹がいては公平性に欠けると思われるし、他の新聞部員もやりづらいからだろう。そのため、姉妹狙いだった私は新聞部には入らなかったのだ。いや、それにしても新聞部じゃなくて新聞サークルって何?

「ああ……よく間違われるんだが、新聞サークルは新聞部とは別の組織でね。私の個人活動なんだ。これが広報紙だ。よろしく」

 そう言って差し出されたのは、新聞部が発行する『山百合新聞』に酷似しているけどよく見たら違う『山桜新聞』というタイトルの紙。

 書体とタイトルを見て思い出した……入学式の日、クラス全員分の席にこの紙が置いてあったことを。新聞部の人たちが血相変えてやってきて「それはフルール・ド・リスの承認印が無い無許可発行物なので読まないでください!!」と言ってあわてて回収していったのだった。

(えっ、この人……ヤバイ人じゃん!!)

 灰学生になって退学寸前のピンチなのに、こんなヤバそうな人と関わったら破滅だわ!

「あっ、用事を思い出したので失礼しま~す……」

「待ちたまえ、話はまだ始まってもいないぞ」

 青山桐子は立ち上がろうとした私の肩をぐいとつかんで座らせようとする。

「ちょ、力強い……! 誰かー! 誰か助け、」

「私が興味があるのは、暴令嬢あばれいじょう戦士だ」

 ……暴令嬢戦士の名前を聞いて、私も抵抗を止めた。

 あの事件の後、謎の令嬢戦士について、誰も話題にしていなかったので、夢か幻かと思っていたのだ。

「アレ見えてたんですか? 良かった、てっきり私にだけ見えた幻覚かと……」

「あまりにも胡乱な光景だったからみんな話題にしたくないようなんだ。」

 それはそうかも……と思う。

「君はあの時、彼女の一番近くにいた。詳しく教えてくれないか?」

「いや、あれを説明しろと言われても……意味がわからなかったし……」

「うむ……では質問を変えようか。レイジョールージュと君は知り合いかい?」

「いえ、あんな知り合いはいません」

「ふーん、初対面なのか。ならばどうして君を助けてくれたんだろうね」

「それは……私にもわかりませんけど」

 冷静に考えてみると、あんな派手な生徒がいればすぐに目立ちそうなものだ。

 黒百合も変身していたし、レイジョールージュもこの学園の生徒なの……?

「では何か思い出したら2年E組に私を訪ねてきてくれたまえ。」

 そう言って青山桐子は食堂を去った。

 それにしても無許可発行物を勝手に出して勝手にサークル名乗ってるあの人はなんで灰学生サンドルにならないんだ……

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