第2話(4) 寮長怪物「掃除鬼《そうじき》」

   ※ ※ ※ ※ ※

一方その頃、生徒達が授業に出払っている東寮では、灰野紅緒がひとり、窓拭きをしていた。アリサの窓拭きが雑だったので、ひとりでやり直しをしているのだ。

 そこへ、建物内を歩き回っていた寮長がやってきて、磨き残しが目立つ窓を睨み付けた。

「ああ、ああ……なんて雑な仕事なの! 汚い窓!! こんな眺めは、聖マリアンナ学園にふさわしくない!!」

「すみません、私が今やり直していますので……」

「ええい、トロい!! 貸しなさい!!」

 寮長は紅緒から窓拭きの道具をひったくると、神経質に窓をゴシゴシとこすり、あまりの摩擦力によって、窓を拭いていた布はあっという間にズタボロになってしまった。

「白百合様が東寮に来ることは無いとは言え……キレイに……キレイにするんだ……白百合様がいらっしゃるこの学園には、塵1つ落ちているのも許さんンンンンンン……!!!」

 寮長の掌が、丸いロボット掃除機に変わり、背中からはモップやホウキがハリネズミのように無数に生え、顔つきは鬼のような形相に変わってしまった。

   ※ ※ ※ ※ ※



「キャーーーー!!」

午後の授業を終えて寮に戻ると、談話室が大変なことになっていた。

 掃除用具のバケモノが、廊下を歩く生徒たちを襲っている。

「どうしたの!?」

 逃げ惑う同級生の一人に声をかけると。

「寮長が怪物になってしまいましたの! 黄崎さん、あなたを探しているみたいでしたわ!」

 と言って逃げてしまった。

 えっ寮長が? 私を!!?!?

 怪物がぐるんと顔を向けて私を見た。そしてモップスリッパを履いた脚で爆速でこちらに迫ってきた!

「キザキ、アリサァ……窓拭きをいい加減にしたのはお前ダナアアアア!!」

「ギャーーー!? ごめんなさいごめんなさい!!」

 なんか背中から生えたモップ引き抜いて殴りかかろうとしてくるーーー!!

 私が思わず目を閉じたとき、カン、と音が聴こえた。

 目を開けると、そこにはデッキブラシで怪物のモップを受け止めている青山さんが居た。

「青山さん!? どうして」

「騒ぎのもとをたどっていたらここについたんだ。いいから早く逃げろ!」

「青山さんは大丈夫なんですか!?」

「心配するな、薙刀の心得はある……よっ、と!」

 青山さんが何とかモップの一本を薙ぎ払う。けれど、怪人は無数にモップを繰り出してきて、とてもきりがない。と、そのとき。

「オーッホッホッホ!暴令嬢戦士レイジョールージュ、見参致しましてよ!パレードは省略ですわ!」

 腰に手をあて、ふわふわの羽飾りがついた扇子で顔を煽ぎながら、レイジョールージュが登場してきた。

「あっ、レイジョールージュさま……グエッ」

 レイジョールージュは、またもや私の胸からいつのまにか生えてきた黄色い薔薇の剣を無許可で引っこ抜いた。

「邪魔ですわ! おどきなさい!」

「アーーッ!!」

 私を蹴り飛ばして廊下の隅に吹っ飛ばした。な、何故!?

「そこの者、わたくしの手足となる名誉を与えますわ〜!」

 青山さんを扇で指しながら、レイジョールージュは言った。

「わ、私……!?」

 青山さんが驚いている間に、彼女の胸が青く輝き出した。その光はやがて青山さんの全身を覆い尽くす。あまりの眩しさに目をかばった。

 光がおさまると、そこにはレイジョールージュと色違いの青いドレスと仮面に身を包んだ青山さんがいた。


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