第2話(2)咲き誇る純白の華!生徒会長 白百合雪姫


          ※ ※ ※


 黄崎アリサが校舎に向かうより、少し前のこと。アリサや紅緒がいる西寮とは反対にある、東寮にて。

「きゃああ! 白百合様のお通りですわ!」

「おはようございます、白百合様!」

 学園の理事長の娘であり、生徒会長でもある白百合しらゆり雪姫ゆきの登場に、黄色い声があがった。モーセの海割りのように、令嬢たちがざっと廊下を開けた。

 日本人離れした淡い色の巻き毛に、薄青色の瞳をした彼女は、童話の世界から飛び出してきたお姫様のような美少女だ。彼女は、他の生徒とは全く違う、真っ白なセーラー服を身に纏う。袖やスカートには、他の制服には無いレースやフリルがふんだんにあしらわれていて、制服というよりドレスのようだ。

 そんな彼女のそばには必ず、黒百合円香が騎士のように付き従っているのだった。

「円香、暴令嬢戦士が現れたそうですね」

 雪姫ゆきは、他の生徒に聞こえないようにそっと黒百合に囁いた。

「はい。しかし気にすることはありません。私が必ず始末します」

「まあ、残念。暴令嬢戦士を一目見てみたいと思っていましたのに」

 雪姫ゆきの言葉に黒百合は眉をひそめる。

「いけません雪姫ゆき。あんな下賤なものをあなたに見せるわけにはいかない」

「ふふふ、冗談ですわ」

 雪姫ゆきがくすくすと笑う。他の生徒たちは、話の内容は聞こえないながら、その笑顔の美しさに、ほう、とため息をついた。

 しかし、次の瞬間。自分の足元を見た雪姫ゆきの顔がさっと曇った。

「まあ、廊下に汚れが……」

 その言葉をきいた生徒たちが、慌てて一斉に廊下に飛び出した。

「白百合様に汚れた廊下を歩かせるわけには参りません! どうか私をお踏みくださいませ」

「わたくしも!」

 名だたる令嬢たちが、次々と廊下に腹ばいになって、雪姫が上を通るのを待つ。令嬢カーペットのできあがりだ。それを見て雪姫ゆきはにこりと笑った。

「まあ。みなさん、ありがとう」

「まったく……しっかり掃除をするよう、用務員と灰学生サンドルに厳しく注意しておかねばなりませんね」

 黒百合が顔をしかめて言う。

 アリサたち灰学生サンドルの屋根裏部屋があるのは西寮。しかし灰学生サンドルは用務員たちとともに、東寮の掃除も担う。無論、白百合雪姫の視界に穢らわしい灰学生サンドルか入ってくることがないように、黒百合も学園理事たちも細心の注意を払っているのである。

 雪姫ゆきのたおやかな脚が、令嬢たちの背中を踏みしめるたびに、カーペットになった生徒から、悲鳴とも嬌声ともつかない声があがった。

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