第1話(4)  粛清の騎士 リスノワール

 ※  ※  ※


 中庭から悲鳴が聞こえたので戻ってきたら、怪物に殺されかけるわ、黒百合様は一瞬で変身するわ、で訳がわからない。えっ、まさかあのサーブル、真剣じゃないわよね……?

「きゃああ! フルール・ド・リス、黒百合の騎士、リスノワール様よ!」

「素敵! 頑張ってくださいまし!」

 さっき逃げていたはずの生徒たちがいつの間にか戻ってきて黄色い声をあげている。

「ウ……ウガアアアアアア!!」

 怪物は、黒百合……いや、リスノワール様を見て……普段なら憧れの存在であるはずなのに……爪を振りかざして襲いかかろうとする。

「あっ、ダメよ美千代さん!!」

 声をあげたけれど今の美千代さんに届くはずはなく。怪物はぶんぶん腕を振り回してリスノワールを襲う。鎧をまとっているのに軽やかな動きでリスノワールは怪物の攻撃を避ける。リスノワールに当たらない怪物の攻撃は、壁や柱を壊していく。

「キャー!」

 私は身を縮めて頭を守り、悲鳴を上げることしかできない。でもそれがまずかったみたい。怪物は私の悲鳴に反応してこちらを見て、私に腕を振り上げた。

「隙あり!」

 リスノワールは、怪物が私の方に向いた一瞬の隙をついて、サーブルで怪物の左胸をひと突きした。

 苦しそうに呻く怪物。

「アッ、ガアアアア……ク……ユリ、サマ……」

「聖マリアンナ学園の生徒は、『清く正しく美しく』あるべきです。そう在ることができないのなら、この学園から去りなさい」

 リスノワールがサーブルを引き抜く。それに伴い、怪物……美千代さんは悲鳴をあげながら、黒い靄のようなものになって、消えてしまった。

 靄が消えると、リスノワールの鎧もいつの間にか黒百合様の身体から消えていて、サーブルをもった黒百合様だけが残っていた。

「リスノワール様が怪物を倒してくださったわ!」

「さすがフルール・ド・リスですわ!」

 生徒たちが歓声をあげる。……ちょっと待ってよ。美千代さんはどうなったのよ!

「ひどい! 消しちゃうなんて! 美千代さんをもとに戻してよ!」

 私の言葉に、黒百合様は涼しい顔をしている。

「あれは聖マリアンナには相応しくない存在だった。だから粛清したまでのことです」

「そんなの貴女が決めることじゃないわ!」

 私が肩を掴んで抗議しようとすると、黒百合態はいきなり私のお腹を蹴り飛ばした。

「痛っ……!!」

 蹴られた勢いで尻餅をついた私の喉元に、冷たいものが触れた。黒百合がサーブルを私の喉元に突きつけている。美千代さんの存在を奪った、本物の武器を。

「静かになさい。フルール・ド・リスに逆らうのなら、貴女も学園の秩序を乱す存在と見なし、粛清しますよ」

 冷たい刃の感触に、私は恐ろしさに息を止めた。野次馬の生徒たちは、黒百合ではなく、私を、責めるように見ている。

 でも、それでも。

「……こんなやり方、私は許せない!」

「……ならば消えなさい」

 黒百合がサーブルを引いて、大きく振りかぶった。嘘、私こんなことで死んじゃうの?

 もうダメだと目をつぶった、その時。

「オーーーホッホッホ!! お待ちなさい。そこまでですわ!!」

 高らかな笑い声がフロア中に響き渡った。



 

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