第3話(2)たまごたっぷりプリンはすべて生徒会長に献上しなさい!?

 どうかみんな買いに来たのがお昼の惣菜パンとかでありますように。たまごたっぷりプリンは余裕で買えますように……。

 そんなわたしの祈りもむなしく、前に並んでいた生徒たちがどんどんプリンを買い込んでいく。ちょ、あいつ3個も買ってったわよズルいんじゃないの!?

 やきもきしている間に、ずらりも並んでいたプリンはあっという間になくなってしまい、購買の店員が「プリン完売御礼!」の立て札をドンと立てた。

「まあ、なんてこと!?」

「楽しみにしてましたのに!!」

 いつもお淑やかな令嬢たちから文句が飛ぶ。

 無いものは仕方がない。でも、どうしよう……そう思っている間に、プリンを手に入れた生徒の中に、顔見知りを見つけた。

「青山さん! そのプリン譲ってください!」

 機嫌良さそうに歩いていた青山さんの肩をつかんで呼び止めると、彼女はさすがに驚いて目を丸くした。

「黄崎くん!? えっ、いや、私だって楽しみにしててやっと買えたんだから……」

「あたしが食べるんじゃないんです! 灰野先輩の命に関わるんですから!」

「い、命に!? それなら仕方ないか……」

「ありがとうございます!!」

 青山さんからプリンの入った袋を受け取ろうとした、その時。ふっと横から腕が伸びて、プリンの袋をかっさらった。

「え?」

 横を見ると、天敵の緑川が高慢ちきな笑みを浮かべて奪ったプリンの袋をこれ見よがしに私の目の前にぶら下げていた。

「ちょっとアンタ何すんのよ!?」

「あら、サンドルのくせに口の聞き方がなってないんじゃなくって? 私は生徒会フルール・ドリスのメンバーになったのよ?」

「ハァ!?」

 緑川が得意そうに反らした胸には、たしかに百合の紋章のピンが留められていた。よ、よりによってこいつが……

「いくら生徒会フルール・ドリスといっても、権力をかさにきてプリンを取り上げるというのは如何なものかな?」

 青山さんが嗜めるように言ってくれる。

「そうよ!それにコレはあたしが食べるんじゃなくて人にあげるんだから!」

「あ〜ら!あなたがそんな殊勝な真似を? でも残念でした、私だって仕事なの。……それにしても本当においしそうね……」

 緑川は自分の手元のプリンをじいっと見つめていたけれど、ハッと我に帰ったように慌てて首を横に振った。

「いけない、いけない……このたまごたっぷりプリンはね、すべて生徒会長の白百合様に献上するのよ。だから私達が回収に動いているとうわけ」 

「そんな横暴通るわけ……」

 緑川は制服のポケットから一通の紙を取り出した。百合の紋章が印字されたそれは、私を灰学生サンドルに突き落としたあの通知書と一緒だった。中を読んでみると、たしかに「校内に販売されているたまごたっぷりプリンはすべて生徒会長、白百合雪姫に献上すること」とある……


 ピーンポーンパーンポーン


突然、校内放送の音がなり、私達生徒は一斉に耳を傾けた。

『皆様、おはようございます。生徒会副会長の黒百合円香です。本日から購買のたまごたっぷりプリンはすべて、白百合生徒会長に献上することに決めました。自らすすんで献上した生徒職員には褒美を与えます。しかし、抵抗する者には容赦しません。武力をもってでも制圧しますのでそのつもりで』

 さっきからずっと何言ってんのよ……???

「さ、わかったでしょう。ではわたくしはこれからこのプリンを献上に……」

「させるかバーカ!!」

 隙だらけの緑川から袋を奪い返して、私は逃げた。緑川がプリンを奪った手柄で褒美をもらうのも癪だし、欲しいものはなんでも手に入る白百合生徒会長が、灰野先輩が食べたがっているたった1つのプリンさえ奪ってしまうのがムカついたから。

「あっ……! ふん、バカね!黒百合様に応援を要請したら逃げられな……キャア!?」

 緑川の悲鳴があがる。振り返ると、青山さんが緑川の手をひねり上げて、通信機らしき機械を奪い取っているところだった。

「ここは良いから、黄崎さんはプリンを届けてやれ! 命に関わるんだろう!」

「青山さん……!! ありがとう! あなたのことは忘れません……!!」

 私はプリンの袋を抱えて、先輩がまつ屋根裏部屋目指して駆け出した。



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