第15話 女神のスキル

今日は土曜日で学校は休み。

時間を気にする必要がない僕と茜は、昨夜のエチエチモードから一転、いつもの幼馴染モードでわちゃわちゃとはしゃいでいた。


「あ、お姉ちゃん昨日泊まったの?何だよ!仲間に入れろよー!」


と、若干ふて腐れ気味で部屋へ突入してきたのは妹の陽日はるひだ。


最近はあまりなかったけれど、夜通しゲームなんかをしてて僕と茜が夜を共にする事は別段珍しくはないので、茜が泊まった事に関して妹は何とも思っていない。

それは親達も同様だ。

今は服を来ているし、僕の部屋は荷物部屋を挟んで妹部屋と離れているので、昨夜の情事音も聞こえていないはずだ。

ふて腐れているのは、単純に仲間外れにされたと思って寂しかったのだろう。


「つかお姉ちゃん!昨日彼氏連れて来なかったじゃん!めちゃ待ってたんだけど?」


ん?何その約束。僕は知らない。


「あ。ご紹介が遅れました!こちらが将来の夫、南君です!じゃじゃーん♪どお?世界一カッコいいでしょ?」


「はぁ?何それー!マジ意味分かんない!確かに世界5位くらいにはイイけどさ、どゆこと?」


何だかよく分からない展開だけど、何気に妹からの評価が高くて嬉しい。


「後で細かい所は説明するけどさ、昨日の夜から私達はそーゆう関係になったから。だから陽日、私達のイチャイチャ邪魔しないでね?」


「まーじー?ねぇお兄ちゃんほんと?」


「じーまーなんだな、これが。もう昨日からマジ惚れ。陽日、アイス残念だったな。でもお兄ちゃん今頭ハッピーセットだから一週間分くらいはおごってやる」


「やりぃ!それはナイスハッピーだよ!いやーでもまさか二人がねー。何か凄い違和感!だって私とお兄ちゃんが急に付き合うみたいなもんじゃん?…あ、でもナシよりのアリかも?どお?私とも付き合ってみちゃう?」


「ナシよりのナシナシだわ!お前アレだろ?どーせ金目当てだろ?そんな邪な愛はお兄ちゃん許しません」


「まじウケる」


「せめて否定しろよ。『そんなんじゃないもん!』って頬膨らませる場面だろここは」


「はいはい夢見んなし。お姉ちゃん、こんな兄ですがヨロねー?って知ってるか!アハハハ」


「おけおけ。義妹よ、ミナの事はお任せを♪それにしても、この新たな関係凄くいい。陽日、2ママとおじさんに私を紹介して?改めて嫁候補として挨拶しなくっちゃ♪」


「いーねソレ!お姉ちゃんいこ!」


「うん!」


盛り上がった二人はバタバタと一階へ降りて行った。

微笑ましくもあるが、一人になってみると急に、渚の件はどうしよ…と少し気が重くなった。

さすがに僕らの親達でも、二股に関しては難色を示すかもしれないが、今度渚を連れて来たらたぶん喜んで歓迎するんだろうな…って気がしている。

ウチの親も茜の親も引くくらいにノリが軽いのだ。

なので、気が重くなるのは渚が茜を受け入れてくれるかどうか、の方だ。


あ!そーいえばあれから渚に連絡してない!

デート中からずっと電源OFFってたから、もしかしたら連絡来てたかも…。

悪いことしたな…と恐る恐るスマホの電源を入れる。

うーわ。とりまデート中に来てた茜からの通知がエグい。

ま、これはもう大丈夫だから放置してっと。

あー渚からも心配メッセージがきてるな…

電話しよ。


『あ!南君おはよ!無事だった?心配したよ!』


「渚ごめんな、昨日帰ってから茜と修羅場っちゃってね、スマホを見る余裕がなくて…」


『あー、やっぱそう?昨日の茜のあの感じからして何かあるかなーとは思ってたけどさ。私にも着信あったし。…で、茜からコクられて南君が困っちゃった…って感じ?』


「え…分かるの?」


『分かる。ちょー分かる。あれでしょ、茜が彼氏出来たってやつさ、どーせ嘘だったんでしょ?』


「そ、そう!ちょっと渚凄くね?何で分かるの?何の能力?チートなの?女神なの?」


『そりゃ南君の担当女神を何年もやってきたからね。同時に茜の事も見てたワケだし。なんとなくは分かってたよ。でも私はズルいから…南君には黙ってたんだ…ごめんね…』


「いや、それだけ僕に本気だったって事だろ?そんなの渚を好きになった今は嬉しいだけだよ?気にすんな」


『ありがとう…。じゃあ…私もさ、茜も南君の女になったこと、許してあげちゃう!』


はいぃぃぃ?!何で?!僕まだ何も言ってないよね??てかコクられた事も言う前に先に言われちゃったし!未来予知か何かですか?さすが女神様!スキルもパない!


「め、女神様!な、なぜお分かりに??」


『アハハッ!やっぱそーなんだ!』


「うん…僕、キッパリと決別するのは辛かったけど、関係をゼロにするつもりでさ、渚を選んだことを告げたんだよね。そしたら僕達が恋人ではないことをツッコまれて…ハニトラに引っかかりまくって…堕ちました。すぐに。そして、浮気した上にさ、僕は二人と付き合いたいと思っていて…ごめんなさい」


…こうして言葉にしてみると…マジで死ぬほどクズいな僕。


『ウケる!南君は安定のちょろさだねー!でも嬉しいな…さっきは当然のように「茜も南君の女に」と言ってみたけれど、内心私は捨てられるんじゃないかと心臓バクバクだったんだぁ。今「二人と付き合いたい」って言葉にしてくれてすっごく安心した…。ありがとう!ちょっと今泣いてる』


「そんな…お礼を言われるような事は何もしてないよ。僕は嫌われて当然の事をしたんだからさ。もっと罵ってくれた方が自然な流れだと思うけど…」


『まぁ…普通ならそうだよね。いくら南君ラブな私だって茜じゃなかったら当然怒ってたと思うよ?』


「えっ茜だからいいってこと?」


『そゆこと!だから気にしないで?』


「気にしないでって…」


『もーいいからいいから、それよりも、南君が茜にどうやって堕とされたのか気になるなぁ…今度茜に聞いてみよっと。で、茜はどんな感じ?「南君は渡さない!」みたいな事言ってる?』


「いや…それがさ、2番でもいいからって…」


『へー…。それはちょっと意外かも。実はさ、私こんな未来が一番だなーって昔から考えてたんだよ?』


「こんな未来?」


『うん。南君と私、そして茜が一緒にいる未来』


「3人がいいの?そりゃ…僕にとっても最高だけど…」


『うん。3人がいいの。私さ、昔から南君と茜の関係に憧れててさ、ずっと仲間に入れて欲しいと思ってたんだよ? そりゃ昨日はもしかして独占?!とか思ってテンション上がったけどさ、少し落ち着いてみると、やっぱ茜いないのは違うかな…って思った。やっぱり南君と茜はセットなんだよねー。 私の好きになった南君の隣にはさ、茜がいないと嫌なんだ、逆に。南君の両側には私と茜がいる、それが理想だった。だけど、いくら私がそれを望んでもさ、茜は南君をシェアする気なんて1ミリもなかったでしょ?だから私は仕方なくライバルをするしかなくて、ずっと茜と戦う羽目になってたの。いっつも負けてた私だけど、昨日茜がミスってくれたおかげで南君を寝取ってさ、好きだと言ってもらえたのは最高のざまぁになったよ?あははっ。ごめんつい本音出た。えっと、ちょっと話は逸れたけど、要するに、今回茜が折れたのならそれは私の夢が全部叶うってこと。世間的には二股だけど、私にとってはそれが理想。だから南君は何も気にしなくていいんだよ?むしろ、私も傍にいさせてくれて感謝しかないのだよ?』


「…そう…なんだ。えっとー…じゃあもう謝らない!…つかさ、もう彼女になってくれない?僕の自由を尊重してくれた事は嬉しいけどさ、中途半端に向き合いたくないなって今思った。まぁ…なんせ二股なんでね、既に中途半端じゃね?とか言われたら苦笑いしか出来ませんけどね」


『あははっ!最後締まらなかったねー。だけど嬉しいこと言ってくれるよね、幸せすぎて太りそう。けど茜が入ってきた以上はさ、今それは決められないかなぁ。そだ、近いうちに三人で会わない?今日でも私全然おっけ』


「なるほど。じゃ今日会おう。茜にも言っとく」


『うん!じゃ連絡待ってるね!あと…南君…』


「ん?」


『だいすき♡じゃね!』


「う、う、うん!じゃね!」



…萌え死んだ。



ってちょっと待て待て。

えっと…何だったんでしょうか今のやりとり。

ドッキリ?

ちょっと楽勝過ぎなかった?

僕にとってこんなに都合のいい展開ある?

ハッピーエンド過ぎて逆にこえーわ。


なんか…ここに来て渚が分からなくなったぞ?


女神だなんだと勝手に認識してさ、少し不思議な部分もあったけれど、変わってるなーくらいで別に気にすることもなかった。

欲と思いやり、そんな女神の偉大さにまず尊敬があって、分からない部分はこれから知っていけばいっか、くらいにしか思っていなかった。

だけど、ちょっと今の渚は不思議すぎる。

やたらと理解が良すぎるし、そもそも三角関係を望んでいたなんてありえるの?

聞いたことなくね?

いくら茜とセットだからって…ねぇ?

いや、僕からしたら有り難い限りなんだけどさ。


うん。言ってる事は少しだけど分かるよ?

親友ないし兄妹みたいな僕と茜は、きっと他人からは特別仲が良さそうに見えただろう。

実際に仲が良いし、仲間になりたいと思う気持ちも分かる。

けどさ、恋愛関係となれば別じゃない?

普通独り占めしたいよね。

現に僕は二股状態だけど、逆の立場なら絶対嫌だし。

だから反発があって当然だし、それを全部ひっくるめても僕の傍にいたい、と思わせるのが僕の仕事だった訳で、最初から3名様大歓迎になるとは思っていなかった。

茜の場合は後発だから選択肢がなかっただけで、本当は二人がいいに決まってる。

茜は二股を受け入れたけど、それは我慢しているだけだ。

これが自然だよね、渚はちょっとイレギュラーすぎる気がする。

分からない…


(あーでもない…こーでもない……考え中)


……ハッ!三国志?!諸葛亮孔明とか言う人が天下三分の計とかゆーのをやってなんやかんややってなんやかんやなるやつぅ?!知らんけど。


(あーでもない…こーでもない……考え中)


………水。


渚の不思議を解明したくて、あーでもないこーでもないと考えている最中、僕はふと、机に置かれた水を見た。


先程自室のミニ冷蔵庫から取り出した500mlのミネラルウォーター。

親父がドンキで大量購入してきた一本39円の水だ。


僕はこの水を飲む時、何故水を飲むのか、この水はどこから来たのか、何故透明なのか冷たいのか美味いのか、そんな事を考えるだろうか。


いや、考えない。


僕は哲学者なんかじゃない。

僕はただ喉を潤し、渇きを解消したいから飲むだけ。

結果、美味しかった冷たかった、と僕は満足するだけ。


ここで水を渚に置き換える。

水、いや渚なだけに海水か。

海水はそのままじゃ飲めない。

一度沸騰させ蒸留し濾過し…ってやめよう。

僕は水博士じゃないしそもそも渚は水じゃない。


脱線した。

凄く無駄な時間だった。


「閑話休題」


とか言ってみる。


えっと、渚は何て言った?

『これが望む形』だと、そして最後に『だいすき』と言った。


大事なのは、これ。


ならば、僕はそれを飲むだけでいい。

するとどうだ?その言葉は僕の心を潤し、全身に幸せが満ちたじゃないか。

なら、それでいい。


つまり僕は、このまま黙って萌死んどけばいい。


フフッ。


何言ってんだろ僕。


フフッ。


カオス。

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