第9話 おさぼりデート③

ゲーセンで音ゲー、クレーンゲーム、プリクラ等を楽しんでいたらあっと言う間に軍資金が尽きた僕は、途中ATMで5000円を下ろす羽目になった。


デートってお金掛かるんですね。


そもそもクレーンゲームでムキになった僕が悪いんですけどね。


しかしデカいだけが取り柄の謎なキャラクターに2000円も使う事なるとは…。


まぁ渚が跳ねて喜んでくれたから別にいいんだけどさ。


この可愛さ、プライスレス。



その後はカフェで軽く昼食も食べ、今度はカラオケにやってきた。




「南君てさ、声甘いよねー。ヨダレもんだよねー。ねぇ動画アプリに上げていい?」



「いやーせめて内輪でやってるSNSくらいにして?アンチこわいから」



「そだね。ファン増えたら嫌だしやめとく」



「うん」



「…モテるよね、南君」



「なに急に。確かにモテなくは無いけど、渚ほどじゃないだろ?」



「ふふっ自覚なしか。ま、ストッパーの茜がいたから仕方ないね」



「でも渚、中学の時告白してくれたね。今でこそ茜も落ち着いたけど、あの頃の茜は近づく者全てを睨みつけるようなヤバいヤツだったのに。凄いよ」



「たしかに!アハハハハッ!懐かしー!あの頃から茜はライバルだったなー」



ライバルか…


あ…



「……もしかして茜さ、僕の事好きだったのかな…男として」



「え…うん…たぶん…。当時は二人して『親友だから』ってハッキリ言ってたから、そーなんだって思っちゃってたけど、今思うと、たぶん恋心もあったよね。少なくとも茜は」



「だとしたら、悪いことしたな…。僕は完全にそう思ってたから。ちゃんと向き合う事が出来てなかった。まぁ…今は彼氏がいるからいいけど…って泣ける」



「そこはドンマイ。子供だったから仕方ないよ。でも南君は全然辛そうじゃないよね、昨日失恋したのに」



「いや、一応泣いたんだよ?今日なんて枕が冷たくて飛び起きたんだから」



「え?!だから早起きしてあの時間に学校来たの?アハハッ!それで今日こんな風におサボりデート出来てるんだね!不思議!運命感じちゃう!」



「それなー。あのさ、ちょっと引くかもしんないけどさ、今本当に楽しいんだよね。いや、分かるよ?失恋したてなくせにコイツ軽くね?ってやつだよね。分かる、分かるんだけど、失恋したと同時にね、僕は今日初めて茜とセットじゃない、僕だけの日常が始まったと感じたんだ。そしたらさ、いつもの街がやたらと新鮮に見えるし、色んな人に興味が沸くし、さらにはこんな凄い美少女と出くわしておサボりデートが出来ちゃうし。そんで、その美少女ときたらもう本当に可愛いくてさ、もしこれが運命ならば今世界で一番幸せなのは間違いなく僕だって思います!歌います!」



ピッ



〜♪〜♪〜♪



「ちょ!待って!ストップ!演奏ストップゥ〜!」



〜♪



ピッ



「な、なんだよ!凄く気分が乗っていたのに!ここはレゲエでビシッとラヴ&ピースな所だろ!?」



「いやちょっと!そーかもしんないけど待ってよ!私今めっちゃトキメいてんだから!もームリ!ホントちょー好き!ずっと好きだった!でも今日の南君がいっちばん好き!!もう我慢出来ない!いいよね?いいよね!ねっ!」



「え、ちょま、ちょ……」



渚はまるで獲物を狩る肉食獣のような勢いで僕に迫り、あっという間に僕の膝に跨がる形で抱っこスタイルになったと思いきや、有無を言わさず強引に唇を奪ってきた。



「チュ、ん、チュッ、チュッ、んっ、チュゥ…チュゥ〜」



ついばんだり長く押し付けたりと、ひとしきり唇を貪られた後、呼吸をするタイミングで一旦離れる唇。


今は鼻と鼻がくっつきそうなくらいの位置で見つめ合い、互いに瞳を潤わせハァハァと荒い息遣いをしている。



たった今犯されるようにして奪われてしまったファーストキス。


衝撃からの緩和、そして満ちていく幸福感と湧き上がる情欲。

もっとしたい、もっと感じていたい……

この初めて覚えた感覚に早くも虜になってしまった僕は、気付けば 「あ、あんこーる…」 と呟いていた。



「じゃ…今度はお口、開けてみて?」



言われるままに軽く口を開くと、恐る恐る探るようにして渚の小さな舌が入ってきた。


それは互いに初心者丸出しで、ぎこちない感じは否めなかったけれど、ピチャピチャ、クチュクチュといやらしい音を立てて舌が絡み合う度、全身に痺れるような快感が僕を襲った。



なんだこれ……


息遣いも、音も、匂いも感触も体温も全部がエロい…。



知らなかった…口は性器だったんだ…。


もうこれ…セックスだ…。



めくるめく快感で瞬く間にトロトロに溶けてしまった脳。


息継ぎも忘れて暫く無我夢中で貪り合った後、僕らは糸を引かせて距離を取った。



おそらく呆けてだらしのない顔をしている僕。


渚も口が半開きでどこかボーっとしていたけれど、よほど呆けた僕の顔が面白かったのか、口元を手で覆ってクスりと笑った。




「ヘヘっ…しちゃったね」



「……凄いね…ほんと……凄かった…」



「ねぇ…下もさ…固いの当たってて…きもちぃ」



「うん…僕は、痛いずっと」



「あ、苦しい?どしたらいい?」



少し困った顔をしながらの上目遣いがなんともいじらしい。


いかん。思わず、このまま勢いに任せて…なんて思ってしまうけど…



「いや…唇みたいに奪って欲しいなってのが本音だけど……でもちょっと1回離れよ?じゃないと、ここでオオカミになっちゃう」



「ふふっ♡わかった。あ、あのさ!今ママいないよ…夜まで」



「……そう」



「行こ?」



「…うん」





…ラヴ&ピース

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