第8話 おさぼりデート②
スキスキオーラ全開の渚が僕の肩に頭を乗せながら体を寄せてきた!
これはカモがネギを背負って来たかのようなキスちゃんすだ!
そう鼻息を荒くしながら僕がキスまでのカウントダウンを始めていると、ものすごいタイミングで送られてきた茜ラインに寸止めされてしまった。
僕は思わず 「防波堤…」 そんな言葉を脳内で呟きながら、あ然としたまま暫しスマホを眺めていた。
そんな僕を見た渚が 「あ、もしかして茜?はぁ。また邪魔してきた…」 とブツブツ文句を言っている。
ほんそれ。
「『どこにいるの?』ってさ。そう言えば僕、誰にも今日サボること伝えてなかったわ」
「あ、確かに!てかちょい貸して?」
「ちょ…」
僕が返事をする前に、素早い動作で奪われていったマイスマホ。
「はいニッコニコぉ〜♪」
カシャッ
向けられたインカメラにはニッコニコの二人。
こうゆーのって条件反射で顔作っちゃうよね。
ついでにちゃっかりピースまでしてるもんね、二人して。
「アハッ♡南君笑顔めちゃかわ♡後で送って?一緒に待ち受けにしよ?」
有無を言わさぬ無邪気な笑顔。
「う、うん!」
ダメだ、逆らう気になんてなれない!
あざとい!
だがそこがイイ!
つかこんなんもう彼女だろ?
彼女だよね?
「はい、返事送っといたよ」
え?……今なんと?
僕が順調に渚に絆されている最中、勝手に操作されていたマイスマホ。
渚は不敵な笑みを浮かべながら僕にスマホを返してきた。
そこには『絶賛デート中でーす♡』の文字と共に先程の画像が添付されていた…
嫌な予感する。
トゥタトゥタトゥタタン♪
トゥタトゥタトゥタタン♪
ほらね。
速攻で返ってきた通話の通知音。
僕は冷汗を流しながら恐る恐る通話ボタンをタップした。
『ねぇ!!どーゆうこと?!ねぇ!!そこどこよ!学校来なよ!!ねぇ!!早く!!』
激おこでした。
耳から血が出たんじゃね?くらいの爆音でした。
近くにいたサラリーマンが何故か席を立った。
ご迷惑おかけします。
しかし、こんなに感情的な茜は小学生の頃に落とし穴ドッキリを仕掛けた時以来だ。
それ以来、テレビで落とし穴企画を目にすると不機嫌になるんだよな…って今はそれどころじゃないよね。
「いや、待って!待って!違くて!…いや、違くないけど!い、今は…」
と、絵に書いたようなしどろもどろムーブをかましていた僕を見かねてか、渚が再度僕のスマホを奪っていく。
「あのさぁ別にウチらがどこで何してようと茜に関係なくない?つかさ、彼氏出来たんでしょ?いい加減にして?もう茜に邪魔する権利なんかないから!じゃーね!お幸せにー!」
『ちょっ…』
プチッ
…つ、強ぇ。
僕は恐怖と尊敬の入り混じった眼差しで
すると
トゥタトゥタトゥタタン♪
トゥタトゥタトゥタタン♪
再戦のゴングだ。
「チっ」
一言そう発した
「お、お疲れ様です…」
ザ、苦笑いの僕。
「いや、最初に喧嘩売ったのは私だからね。むしろごめんね?付き合わせちゃって…あ、あのさ、ちょっと震えちゃったんだよね…腕…借りていい?」
そう言う渚の体は確かに少しプルプルとしていた。
あざといモードから一転戦闘モードへの切り替え。
その後遺症だろうな。
「もちろん。おいで?強かったね」
そう言うと、渚は「くぅ♡」みたいな声を出しながら、差し出した右腕にギュっとしがみつき、頭はまた肩に乗っかった。
なに今の「くぅ♡」って。
可愛すぎだろ、後で録音させてもらいたい。
そんな事を考えながら、僕も渚を真似て、渚の頭に僕の頭をコテっと乗っけた。
「…何このカップル感。癖になりそう」
「私も。写真…いや動画撮ろうかな記念に…」
「やめて?今とても見せられるような顔してないから、たぶん」
「なにそれめっちゃ見たい。けどこの状態をキープしてたい。無念。」
「つかさ、茜キレてたね。アイツの中の僕の立ち位置なんなの?所有物的な感じなのかな。ムカつくな」
「…それはあるね(たぶんそれだけじゃないケド…)。何にせよ、一度話し合って線引き考えないとダメかもね。いちいち干渉されてたら嫌でしょ?」
「だね。頭ごなしにあんな態度は許せないよ。彼女でもない癖にさ」
その言葉に反応するように、僕の肩から顔を離し、こっちを向いてジッと見つめてくる渚。
もう震えてはいないけど、腕は絡めたままだった。
「…あのさ、どうしても分からないのがさ、何で二人は付き合わなかったの?いつも家族みたいって言うけど、他人じゃん?今まで茜に恋した事なかったの?」
これな、説明しづらいんだよな。
なんたって僕にも分からないんだから。
「……何でと言われても困るんだけどなぁ。実の妹がいて、茜がいて、それが当たり前で…いや、外見も中身も大好きだよ?けど…まぁ…不思議だよね、周りから見れば他人だから尚更さ。でも…実はさ、昨日…初めて茜に恋したんだよ」
「え?!昨日?…男出来たって言われて嫉妬したって感じ?」
「いや、嫉妬はあったけどさ。それはちょっと違くて。…恋したのはね、茜の横顔が綺麗だったから。西日に照らされて、目を細めて川を見つめる姿が綺麗でさ。惚れた。変な話だけど、13年目の一目惚れってやつ。…と言っても、それを自覚したのが昨日の夜だったから、気づいた時には既に失恋状態だったんだけどね、ぴえん」
「あぁ…あるかもね、そんな時って。分かんないけど…何か分かる。何かの拍子に急に恋に落ちる、みたいな。でも、自覚したならさ、奪ってやろうとか思わなかった?」
「あ、ちょっと思った。今からアイツの部屋に突撃して土下座しようかなって」
「ちょ、土下座て」
「いや、マジで。だけどさ、こうも思ったんだ。何か…安易だなって。だってもし土下座なんかしたらさ、高確率で茜はOKするもん。僕への同情でね。でもそんなの、後出しジャンケンみたいで嫌だし、それなら、さっき生まれたばかりの恋心がさ、この先もずっと変わらないのであれば、その時はどんな手を使ってでも茜を手に入れようって。でも今は、せっかく決意した茜の気持ちを尊重しようって思った」
「そっかぁ…。じゃ今は茜に恋愛中ってことね…シュン」
出た。
やだこの子、いちいちあざとカワイイ。
「あ、やめて。頭ぐりぐり&手にぎにぎ+おっぱい押し付けって反則だよね?さらにいい匂いまでしちゃって。完璧かよ。ぶっちゃけるけど、僕はちょろいんですよ?」
「ふふっ♡だよね、意外とちょろいよね南君。さっきから露骨な私のアピール全部くらってない?」
「えぇ、まあ。正直どハマりですよね」
「アハハ!大・成・功!ねぇねぇ今日どこ行こっか?私の軍資金は…ざっと4千円なりよ!」
「僕はね、えっと…3千円だね。行けてゲーセンとカラオケくらいかなーお昼もあるし。ちょい寒いから公園とかは避けたいな」
「そだね。じゃ、あと2時間くらいはここでイチャイチャしてよ?その後はゲーセンとカラオケ行こっか♡」
「おけ。れっつイチャイチャ」
「パーリナイ♡」
そのまま暫くマックでイチャコラしてゲーセンへ向かった僕ら。
あまりの楽しさに、ついぞ茜を思い浮かべる事はなかった。
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