幼馴染に彼氏が出来た…僕も彼女欲しい。

@game2

第1話 彼女はまるで夕暮れ

西日で朱く染まった水面がキラキラときらめく。


時は放課後、ここは帰り道に立ち寄った近所の河川敷。

僕らはベンチに腰掛けて、ただボーっとそれを眺めていた。


あぁ、夕暮れ時はいつだって少し寂しい。


でも何故だろうか、ちょっと寂しく感じつつも、同時に少し穏やかな気持ちにもなったりする。


なるほど、得てして感情とは単純でいて奥深く、そして複雑に絡み合うもののようだ。


古来より続くであろうこの川の流れ、ウホウホと棒切れを振り回していた遠い原始の頃、彼らもこんな気持ちで夕日に染まる川を見つめていたのだろうか…


…なんて、僕がセンチメンタル、かつノスタルジックに遠い祖先に思いを馳せていた時だった。






「昨日の告白ね、受けようと思うの」







唐突に茜が呟く。







…………………ウホ?


思わず原始人もビックリな茜のとんでも発言。

驚きすぎた僕の視線は光の速度で川から彼女へ。

しかし、当の茜といえば、まるで何でもないかのように流れる川を静かに眺めていたのだった。



(…………………綺麗だ)



僕のびっくりまなこに映るのは夕日に照らされた彼女の横顔。


眩しそうに目を細めながらも、まっすぐに川を見つめる凛としたその姿は、一見気丈そうな雰囲気を纏ってはいるけれど、同時にうつろげでいてどこか儚い。

芯がありそうでいて、そのくせ絶妙な曖昧さを醸し出す彼女の表情は、まるでこの夕暮れのような美しさだった。


(ゴクりっ……)


思わず息を飲む。



そのあまりの美しさにしばし見蕩れてしまっていた僕。


夕刻を告げる放送が電柱のスピーカーから流れ出し、ハッとした僕は思い出したかのように「…そう」と力なく返した。


茜は変わらず前を向いたまま、「うん…」と小さく溢した。




……そこから10分くらい経っただろうか、あれからも互いに無言のまま、相変わらず川を見つめていた僕と茜。

いつしか煌いていた川はグレーにくすみはじめ、川を挟んだ向かいを走る車にはちらほらとライトが灯っている。

僕はそんな風景を心ここにあらずの状態で眺めながら、ぐちゃぐちゃになっていた心と頭を必死になって整理していた。



須藤すどう あかね、家が隣りで、家族ぐるみの付き合いで、幼稚園の頃から一緒に育ってきた幼馴染。

男女という性別の違いはあれど、親友であり、まるで双子の兄妹のような感覚の存在。

子供の頃から今まで、何をするにも、どこに行くにも、殆ど僕らは一緒だった。


物心つく前から一緒にいるのがあたりまえ。

そんな、あまりにも近い存在だからだろうか、高校一年生になった今でも茜を異性として意識した事はない。


ただ、僕にとって茜はかけがえの無い存在なのは確か。

だから、例えば僕に恋人が出来てしまうような事があれば、この茜との居心地のいい関係が崩れてしまうような気がして怖かった。

それ故に僕は今まで受けた告白を断ってきたし、そもそも誰かを好きになるほど女子と深く関った事も無い。

そんな僕ではあったけれど、このままいけばいずれは茜と結婚するのかも……なんて考えは漠然とだけど、あった。

異性として特別意識していなくても、少なくとも、彼女が傍にいない人生なんて僕には考えられなかったからだ。


当然、茜もそうだと思っていた。


僕もわりとモテる方だとは思うけれど、それ以上に茜はモテる。

可愛らしい顔立ちで性格も明るい茜は、中学生の頃から何度も芸能事務所から声が掛かるくらいだし、当然僕とは比べ物にならない程に告白を受けている。


なのに、茜は全てを断った。


理由はきっと僕と一緒だろう、と勝手に納得していた僕だったけれど、どうやら今回の告白は受けるらしい。


そんな茜が告白を受けるなんて、相手は一体どんな人なのだろう?

なんて疑問も浮かんではくるけれど、それよりもさっきから僕の心がザワザワと落ち着きが無くて困っている。


さっきの横顔が綺麗でドキッとしたから?

うーん…違うな……なんかこう…焦り?みたいな…

なんだろうな……コレ…

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