第12話 何が何だか

計5回にも及ぶ熱戦を終え、疲れ果てた僕を労って渚が夕食に焼きうどんを作ってくれた。

正直ずっと一緒にいたい気持ちが強かったけれど、いかにも事後な僕らを母親には合わせづらいとのことで僕は今帰宅の途についている。


少しのダルさを伴う疲労感と、普段あまり使わない部位の筋肉を酷使したせいか、早くも軽い筋肉痛になっている。

それでも足取りは軽く心もどこか浮き足立っており、油断したらスキップをしてしまいそうな自分が怖い。


いやーしかし、ついに僕にも彼女(セフレ)が出来ました!

今までどこか他人事だった彼女(セフレ)という存在。

それがどうだろうか、今の僕の頭を埋め尽くすのは渚・渚・渚の一色。


彼女の声、彼女の顔、彼女の匂い、彼女の感触…どれを思い浮かべても僕の顔を緩ませてしまう。


あぁ…コレが恋というものか…。


奇しくも経験した昨夜の初恋は苦味の強いコーヒーのようだったけれど、今日から始まったセカンドラブときたら練乳のように甘っ甘。

なんなの?恋って凄くない?やっべまた会いたくなってきた!

あの吐息交じりの艶やかな声、僕を求める蕩けるような眼差し、甘ったるくも刺激的な香り、白くてすべすべな柔らかい肌…って全部セックス関連!!

いかんいかん!不純だったわ!

えっと…笑顔とか、性格ね、えっと後は…まぁとにかく全部!全部良いんだよ渚は!

ほんとにさ、もーなんつーか……好きなんですよね(照)。


…うん、自分でも分かる。

今の僕はテンション高すぎてかなりキモい。

正直イタくてかなりヤバいヤツになっている。

恋は盲目…気をつけなければ。


「ふぅ…」


玄関に入る前に一つ息を吐く。

せいぜい妹にツッコまれないようにクールな兄を装わなければね。


「ただいまっと」


「ちょっと南!今何時だと思ってんの!連絡もしないで!電話も繋がらないし、心配したよ!」


はいはい。

これだから嫌だよ母親ってのはね、悪いけどさ、もう僕はボーイじゃないぜ?

いつまでも子供扱いは困るよ?

僕はね、もう、男、なんだぜ?


「母さん。男にはさ、そんな夜もあるんだよ。そう、男にはね」


「何キモい事言ってんの?とにかく、遅くなる時はちゃんと連絡しなさい!家族に心配かけるうちはまだガキって事なんだよ!ガキが偉そうに男語ってんじゃないよ!バカ息子!」


「ちょっ母さん!陽日に聞こえたら僕ナメられちゃうからやめて!悪かったって!気をつけるからもう勘弁して?ね?ごめんよマミー」


「はぁ。まったく。で、ご飯は?肉じゃがあるよ?食べる?」


「いや、食べたからいい。疲れたからもう寝るー」


「そ、わかった。けど、今度連れてきなさいね、彼女」


「なっ?!マジか…う、うん。りょーかいです」


「ふふっ分かりやすいわねアンタ。じゃおやすみー」


「うん…」


…何だよ母さん…やるじゃん。


母の意外な鋭さに驚きつつ僕は部屋へ。


「うー。色々あったなー今日は…」


グイーっと背中を伸ばしつつ今日あった事を思い出す。

目まぐるしい展開だったけれど、幸せだったなー。

あ、母さん今度連れて来いって言ってたな…

今度夕飯にでも誘ってみるか。

渚のお母さんはいつも遅くて、平日はだいたい夕食は一人って言ってたし、家も歩きで20分くらいだしな。

あ、そだ、無事着いたよーって連絡しとくか、心配させないのも男の努めらしいからね。

と、スマホを手に取った所で不意にドアが開いた。


茜だ。


入り口でゆらりとまるで亡霊のように立っていた茜。

ギロリと射抜くような目で僕を確認すると、僕を目がけて一直線に駆け寄り抱きつかれた。


「のわっ!」


いきなりトップスピードの勢いで抱きつかれた僕はのけ反ったもののなんとか耐える。


「ちょっとちょっと茜さん?ラグビーの練習ですか?練習なら明日にし…」


「会いたかった…」


「…はい?」


「会いたかった!会いたかった!ミナ…ミナ…ミナ…」


ちょっと待って?どうゆう状況?

僕の胸に顔を埋ませてシクシクと泣きながら名前を連呼している茜。

明らかに普通じゃない。


「いや、あのさ、話は聞くからちょっと離れて?とりまドア閉めたい。このままだと野次馬来ちゃうから」


そう言うと、腰にキツく絡まれていた茜の腕がスッと離れる。

茜も野次馬を警戒しているのだろう。

その隙に僕はドアを閉め、虚ろな目をしている茜をそっと抱き寄せて頭を撫でる。

怖がりな茜が泣いたりした時はいつもこうやってなだめてあげるのが僕の仕事。

分かった。さてはコイツあれだな、さっきまでホラー映画でも見てたな。


「まだ怖い?まだこうしてたい?」


「うん」


可愛いヤツめ。

まぁ今日は妹がいない分なだめるのがラクだ。

二人いっぺんだと忙しいんだよな。

何て思っていると


「女の匂いがする…」


ヒエッ

咄嗟に距離を取る僕。

が…すぐに捕まる。


「知らないシャンプーの匂い…」


怖い怖い怖い怖い怖い!

なんだよ!

これどんなホラーだよ!


「何で?」


「ちょ、お前こそ何なの?泣きやんだなら帰れよ!」


「好きなの!!」


「はい??」


「ミナ…」


「ちょっと!うわっ」


強引にベッドへ押し倒された僕はそのまま唇を奪われた…


もう…僕には何が何だか分からなくて…

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