第13話 傷だらけの告白

突然の告白と強引なキス。

まさか、同じような体験を一日に二度も体験するとは思わなかった。


ただ、二度目の方は幸せを感じる事は無く、震える茜の唇からは悲痛な思いだけを感じた。


何が何だか分からない。

だけど、僕はどうしてもその震える唇を振り払う気にはなれなかった。



少し経ってから離れた唇、覆いかぶされている僕の顔には茜の涙がボタボタと落ちて来ている。


「茜、お前の涙が僕の目に引っ越して来てるよ。ちょっと目が痛いから僕の腕離して?拭ってあげるから」


「うん…ごめんね」


ベッドに座らせて涙を拭ってあげる。

されるがままの茜。

よく見ればなんとなくやつれているようにも見える。


「何かあったのか?彼氏と喧嘩しちゃったとか?」


「ううん…あの話は…嘘なの」


「えっ……嘘?」


「うん…昨日言いそびれちゃったんだけど…告白を受けるって話ね、嘘なんだ…ごめんなさい」


「…えっと……」


茜が何を言っているのか理解出来なかった。

嘘って……何?何で?じゃあ昨日のあれは一体何だったの?ドッキリ?…てことは僕の初恋と失恋は…幻?ん?


あからさまに困惑している僕を見て、小さく「ごめんね」と呟いた茜は、再度流れ出した涙を強引に拭い、なにやら真剣な面持ちで僕を見据えた。


「ミナ…あのね、私はあなたの事がずっと好きだった。家族のような存在としては勿論だけど、異性としてあなたが好きだったの。あ、今もだよ?ずっとずっとあなたが好き。…これまであなたの親友や兄妹を演じて来たのはさ、告白して距離を置かれるようになるのが怖くって、どうしても言えなかったから。…でも、どうにか私の事を女として意識して欲しかったから…彼氏が出来たって言ったら…ちょっとは意識してもらえるかなって…嘘ついちゃった。…本当は昨日の内に謝りたかったんだけど、ミナがさ…漠然とでも『茜と結婚すると思っていた』なんて言ってくれたものだから…嬉し過ぎてニヤけが止まらなくさ…こんな顔して謝るなんて失礼だからって…タイミング逃しちゃった。…昨日ね、あれからずっとあなたへのラブレター書いてたんだよ?気付いたら夜中まで書いてたの。…今日はね、朝一番で謝って、ラブレターを渡して、いつかお嫁さんにして下さい!って言うつもりだったんだ。だけど…朝からミナは居なくって…会いたいのに…会いたいのに会いたいのに会えなくて…それなのに…それなのに渚と一緒にいると知って…。私…学校で倒れちゃった。意識が戻ってからはそのまま早退してさ、夕方までこの部屋で泣いてた。…分かってるの、誰も悪くなんかなくて、私が昨日あんな事したからこうなっているんだとは…分かっているんだけど…辛くて……悲しくて…。だけど…やっと帰ってきてくれて…嬉しかった。抱きしめてくれて、いい子いい子してくれて、嬉しかった。…だけど……そのシャンプー…渚の…だよね。…今日………したの?」



長い告白と短い質問。

そのどちらも僕の心を抉った。


震えた声で、怯えるように言った最後の質問から続く沈黙。


どうしたらいいのか…


向き合うことも、逃げることも辛い。


どうしていいのか、どう答えていいのかが分からない。


ただ、僕がこれから何を言い、何をしたとしても、茜を傷つける事だけは…分かっていた。


そう…これから僕は茜を傷つける。


既にボロボロになっている茜を…僕はさらに傷つけるんだ。



「茜、久しぶりにさ、一緒に寝ようか」


思いもよらない発言だったのだろう、少し驚いた顔をした茜は、何も言わず、ただ小さく頷いた。

僕だって何故そんな事を言ったのか分からない。

僕はただ、いつもの幼馴染としての距離感になる事で、少しでも落ち着きたかったのかもしれない。

だけどそれは物理的に距離が縮まるだけ。

今となっては、それは仮初めの距離感だと分かっているのに。



向かい合わせでベッドに横になった僕ら。

互いに息が掛かるくらいに顔の距離が近い。

子供の頃から、一緒に寝る時はいつもこの距離。

いたずらの計画、テレビの感想、今日あったこと、明日の予定…そんな事をクスクス笑いながら話し合っては、いつの間にか寝てしまうんだ。


電気を消す。

窓から差し込む月明かりが、茜の顔を優しく照らす。



「茜…」


「うん…」


「幼馴染の茜…」


「…うん」


「そして、初恋の人」


「えっ?!」


「驚いた?」


「うん…だって…」


「好きだって気付いたのは、昨日の夜」


「え…」


「でも、既に失恋している事にも気付いてさ…泣いちゃった」


「ミ…ミナ……ごめんなさい…」


「でもさ、失恋…してなかったんだよね?」


「う、うん!してない!全然してないよ!だから…」


「僕は今日、セックスをしたよ」


茜の言葉を遮るようにして、僕は言葉を被せた。『だから…』の続きを聞くのも、言わせるのも辛かったから。


「うぅ…うっ…ふぐぅ…」


それまでそっと僕の背に回されていた茜の腕に、ギュッと力が入る。


今日幾度となく見た茜の涙。

顔を歪め、嗚咽混じりで、必死に堪らえようとする今の茜は、その中でも一際僕の胸を締め付ける。


でも、僕は続ける。


「渚を好きになった。一緒に育った幼馴染でも、初めて好きになった人でもなくて、僕は…僕は渚を彼女にしたい」


「うぅ…うぅぅ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!嫌っ!嫌ぁぁぁ!!ダメぇ!ダメッ!!ダメッ!!だめぇぇぇ!!ミナ!ミナぁぁ!!お願い!!お願いだから!!そんな事言わないで!!ミナッ!ね?ミナ?お願い、お願い、お願い……ミナ……」


もうこれ以上、僕は何も言うことが出来なかった。

いつもなら、茜の頭を撫で、優しく言葉を掛けている所だろう。

でも、今は僕から茜に触れる事は無く、ただひたすらに泣き止むのを黙って待った。


これほどに強い想いを抱えた茜の側にいることはもう…出来ない。


茜が泣き止んだ時、それはきっと僕らが終わる時。

家族でも、幼馴染でもない関係が始まる時。

僕はその時が来るのを、ただ黙って待っているんだ。


十数年の思い出が、僕の頭をかけ巡る。

思い出の中の茜は、いつも僕の側で笑っている。


『ねぇ見て見てミナっ!』水族館で。

『ミナっ早く早く!』お祭りで。

『美味しいねっミナっ!』食卓で。

『やったねミナ!やっとボス倒せたねぇ!』この部屋で。


離れたくない、僕だって離れたくなんかないよ…


ずっと抑え込んでいた涙が、いよいよ臨界点を越えて溢れ出す。


どうしようもなく辛くて、苦しい。


ごめんね茜…ごめんね…


そうやって何の意味も成さない謝罪を、何度も何度も心の中で繰り返していた時、とうとう茜の涙が、止んだ。



「あ、茜、あのさ…」


「『彼女にしたい』って何?」




「………………え?」




……いやいやいや、ちょっと待って?

泣き止んだと思ったら、急に低い声で何か言い出したんだけど?

これ、アレだよね、怒ってる時の口調だよね?

いや、おかしくない?

だって僕ら喧嘩してる訳じゃないじゃん?

しかも、僕が意を決して決別の言葉を言おうとした矢先に…

どうしよこれ…完全にタイミング失ったんだけど……


「だからさ、『彼女にしたい』って何なの?彼女じゃないの?」


アイたたたぁ~ それ聞いちゃう?

やめてくれないかなその質問!

答えづれぇわ!!


「いや…えっとーあのー…」


「やっぱりね。彼女じゃないんだ?ふーん」


どうゆう展開?

ねぇこれってどうゆう展開?!


「えっとー…まぁ正確には?彼女じゃないってゆーか?両想い……的な?」


「へー。両想いねぇ?セックスはしたのにねぇ?彼女じゃないんだ?ふーん」


その『ふーん』やめてくんない?いちいちディスんないでくんない?


「そ、それには深ぁーい理由があってね?まぁ実質?彼女と言ってもね?過言では無いワケで…」


「でも彼女じゃないんでしょ?YESかNOで、はい」


「…YES(くそっ!ずるいぞその聞き方!)」


「ねぇミナ」


「はい…」


「エッチしよっか」


「いやもうムリ!今日いっぱいしちゃったもん!」


「ふーん。でも嫌って言わないんだね」


「うっ…」


くっそぉぉぉ!何だよこのハニートラップ!!僕のバカ!だって…僕はもうセックスの良さ知っちゃったから?全然嫌じゃなかったし?フツーに今日はムリかなぁって?思っちゃって?なんなら?明日ならーとか思っちゃって?


「あのさぁミナ。いつでもどこでもセックスできる幼馴染ってどう思う?」


「素敵……あっ…」


「あーあ、出ちゃったねー心の声」


出ちゃったねー…ってもうヤダ…こんな自分が情けないよ…


「もう勘弁してくれ…」


「だーめ。好きよ…ミナ」


んちゅ…ちゅ…ちゅぱぁ…


「んっ…あ、あかね…」


「ミナ…こんな私、知ってた?」


「知らない…」


「名前も?」


「あ、あかね……」


「違うよ?えっちな幼馴染のあかねちゃんだよ?」


「え……えっちな…」


「そうだよ?しかもミナ専用なの」


「専用……」


「そうだよ?このおっぱいもミナの」


「……そうなの?」


「あたり前でしょ?」


「あたりまえ……」


「そう。ミナのだもん。モミモミして?」


「…こ…こう?(モミモミ)」


「んっ♡もっと。さきっちょも」


「さ、さ、さきっちょ…(ツンツン)」


「あん♡ねぇ…ミナ?」


「は、はい」


「ここ…カチカチなったね?」


「……えっと…」


「ふふっ♡どしよっか?」


「いや……」


「ペロペロする?」


「……ペロペ…ロ?…」


「ふふっ♡では、いただきまぁす♡」


「えっ…あの…」


あむっ♡


「ふわぁ」





…こうして、何故か女悪魔サキュバスに進化してしまった幼馴染に夜中までたっぷり絞り取られてしまった僕。

対 渚戦も含めれば本日計7回の放出に、何がとは言わないがナニかがヒリヒリしちゃって痛くて真っ赤。

それでも構わず続行しようとするあかねちゃんに今しがたDrストップをかけた所。

手持ち無沙汰になったあかねちゃんは僕の指をカプカプ噛んで遊んでいる。


そして、この女悪魔サキュバスこと、えっちな幼馴染あかねちゃんにすっかり魅了されてしまった僕は、先程までのシリアス展開は夢だったと思うことにした。


だって、エッチな事をしつつもあかねちゃん必死だったから。

怖くて、辛くて、泣き出しそうなのをぐっと我慢して、それを悟られないようにけなげに一生懸命に頑張ってくれた。


…言わないんだよね、「渚と別れて」とか「私と付き合え」とか。


えっちな幼馴染を演じながら、ただ僕を喜ばせようと、笑うんだ。


そんな茜から、言外に「何が何でも傍にいたい!」って叫びにも似た想いが伝わってきて、痛々しくて、切なかったけれど、それが狂おしいほどに愛しくて仕方がなかった。

気づけば、僕の方から抱きしめていたんだ。


だから、もう知らね。

決別?は?何それおいしいの?


相手は女神と女悪魔サキュバス、僕は賢者(モード)。

ならば、もうハーレムしたっていいじゃないか。


…そうだろ?お前ら。

(ガンガンいこぉぜぇ!)

(ゆうべはおたのしみでしたね!)


うん。

僕の脳内悪魔達はいつだって僕の味方。


と、なれば、だ。

先程から僕の指をカプカプ甘噛みしているあかねちゃんにも伝えないとね。


「あかねちゃん!」


「(カプッ)」


え、なにこれ『うん』てこと?まぁ、いーか。


「僕に、ついてこい!」


「(ガブッ)い、いーの?!」


痛っ!ウソだろおい…絶対血でた…


「痛いよあかねちゃん…。うん。君に決めた!ってやつ」


「ごめん!でも、ほ、ほ、ほんとに?!渚は?」


おっと。

それはね、あかねちゃん。

明日の課題ですよ?

今それを僕に聞くのは酷ってやつですよ?

でもまぁ…そりゃ聞くよな…


「えっと……メンバー…だね」


「そ、そう…。で、でも嬉しい!ねぇミナ!嬉しい嬉しい嬉しい!」


わぁ…会心の笑顔だ、かわいい。

つまりこれは…とりま茜からは二股OK出たってことか?


「あの…メンバー3人ですよ?(渚を説得出来ればですけど)それに、あかねちゃんもあの…渚を尊重してまだ正式な彼女という訳には……ってあーもういーや。茜、お前もセフレな?暫くな?理由は明日な?」


「ぜんっぜんいーよ!今めんどくなって凄くクズい事言ったけど、ぜんっぜんいい!私はミナの傍にいたい!アハハッ♡嬉しー♡でもセフレって言葉はイヤ。えっちな幼馴染がいい」


「…そうなんだ。こだわるね、そこ。はい、じゃー寝るか!」


「うん♡ねぇチューしてー?」


「はい喜んでー!」



キスした後、茜はすぐに寝た。

ほんとに、1分経たずに。

思えば部屋に来た時には既にやつれていたもんな。

クタクタだったんだろうな…茜は凄いな…。


「諦めないでくれてありがとう」そんな気持ちを込めて、もう一度寝顔の茜にキスをした。




はい、そんなこんなで、今日、僕のパーティにえっちな幼馴染あかねちゃんという仲間が増えました。


見た目は清楚、中身は淫乱で頑張り屋の悪魔系モンスターだ。

得意技は寝技(大人の)、奇襲に気をつけろ!


という事で、明日からの冒険(日常)は行きます。

今日はさすがに、寝ます。

グッナイ!

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