第14話 ビッチパンツ
うぅぅ…さむ……さむい…
「う…さっむ。うぅ…さむいぃ…うわ…真っ裸だ…つか寒いやばい布団布団って茜…っコイツっ!」
あまりの寒さに震える体を擦りながら目を覚した僕は、すかさず掛け布団を根こそぎ持っていった犯人を睨みつける。
「はぁ…またかよ…」
昔っからそうなんだけど、茜は布団を巻き込んで寝る癖があって、何度文句を言っても直らない。
いつも布団を取られる僕は、仕方がないので、寒い時期はあらかじめ着込んで寝るっていう自衛策をとっていたんだけど、今日は何故か裸だ。
ほんとに、何故裸なのかは全く見当がつかなくて不思議で仕方ないのだが、室内温度は体感で15度くらい?知らんけど裸でいるにはかなりキツイ、風邪ひく。
クソが…一人でぬくぬくしやがって。
みてろよ、お前も地獄に引きずりこんでやるからなぁ!HAHAHAッ!
僕はまるでアメコミのヴィランのように笑いながら、何故か真っ裸で寝ているの茜の背中に抱きついた。
「ヒィィィィィ!何?!何?!ちょっとミナ?!やめてぇー!冷たいー!」
「うるせぇ!キンキンに冷えた僕の体!とくと味わえぇ!HAHAHAぁ〜!」
ギャーギャー、ジタバタと暴れる茜を問答無用でガッチリホールド。
あぁ〜あったかぁ〜い。
「ギブギブギブだってば!いやぁー!ヒィー!」
「へへっ。あったかいこれ。離したくない。へへっ」
あぁ…なんて至福な一時…やわかくて…あったかくて…なんか大人しくなったし…あぁ…そうだ…このまま…寝よう…
「…もう一回言って?」
「あん?(眠いのに…もう…この湯たんぽうるさい)」
「言ってよ…」
あーもう!なんだよ…
「キンキンに…」
「違くて!離したくないって…言ってよ…」
それか…
「言ってない」
「言ったもん!」
クソ…この湯たんぽメモリー機能付いてやがる。
「…やだよ。ハズいし」
「なんでよ!さっきからカッチカチさせてる癖にさ?それに比べたら恥ずかしくないでしょ?」
た、たしかに!
「ほんと、すいません。あの…離したくありません。すいません」
「ふふっ♡ミーナっ♡」
ぐるりんっと向きを変えた茜は「恥ずかしがりやさんでちゅねー♡」とか言いながら僕の胸に頭をスリスリしている。
なんだかな…
昨夜の件もそうだけど、僕としてはずっと茜にマウントを取られている気がして気にくわない。
あ、そうだ。
「あかねちゃん」
「なっ?!」
ふふっやはりな。
どうやら今の茜は通常モード。
彼女感は出してくるけれど、昨夜のようなサキュバスエロス感は無い。
それを見抜いた僕は唐突に『あかねちゃん』と呼ぶ事で茜の動揺を誘った。
アワアワと案の定キョドり出した茜。
クククッどうやら来たみたいだね!僕のターンが!HAHAHAッ!
「おやおや?どうした?急に胸を隠すような事をして。ん?今更何を恥ずかしがっているんだい?昨日の君ときたらえっちなおさ…」
「や、やめて!ち、違うから!ほんと、違うから!」
「あれれぇ〜?おかしいぞぉ〜?」
「くっ…」
「昨日はいたんだよなー。たしか僕専用のあの子。もう会えないのかなー?寂しいなー?」
「ちょ…。えと、えと、あ、あの子ね?い、いるよ?ミナがね?あのね?求めてくれたらね?す、すぐに出てきちゃうんだよ?だからね?…あの……する?」
ちょ…ヤバい!モジモジしながらの上目遣いがヤバい!昨夜は急に変身した茜に流されるまま、あれよあれよと乱れてしまった僕だけど、こうして通常モードから誘われるパターンは予測してなかった!
めっちゃカワイイ!ヤバい!
どうしよう…攻めてたつもりが凄いカウンター食らっちゃった気分!
立て!立つんだ
…いや、勃ったらダメだろ!ってパニック!
「だ、大丈夫!ほんと、ごめんね?なんか…ごめんね?あの子にもよろしく言っといてね?」
「そう…。ちょっと残念。でも忘れないでね?いつだって求めて欲しいんだからね?…あの子も、わ、私も…ね?」
─ K.O. YOU ᒪOSE. ─
はい。完敗。
もうやめよ、このやり取り。
勝てる気しない。
「うん分かった。そん時はよろしく。つか服着よーぜ?」
「うん。あ、ねぇミナ、どう?私の体。少しは女になったでしょ?」
「それなー。今までの僕はバカだったね。もっと早くお前の魅力に気付いてたら良かったのに。今は後悔してる」
「ほんとに?!ヤバいめちゃ嬉しい!たぶんさ、まだ成長中だから、これからはもっと良くなるよ!へへ♡」
「まぁせいぜい頑張りな。ただ僕は茜だったら何でもいいよ。太っても嫌いになんかならないし」
「嬉しいけど…太るは嫌だな。渚もいるし…」
渚ね…。
別に忘れてた訳じゃないんだけどさ、今はまだ何て説明したらいいかな…って考えてる状態。
親も妹もいるから、さすがに昨夜は最後までしなかったけれど、フツーに浮気だしな。
いくらセフレとはいえ、両想いで、恋人に内定している彼女。
ちゃんとケジメは付けないとな。
だいたい、浮気だけならいざしらず「僕は二股王になる!」って宣言するんだからね。
単純にクズだし当然嫌われるよな…。
でも、でも僕は渚も好きだ。
手放したくない。
たとえ暫く上手くいかなくなっても、どうにかして渚も手に入れたい。
僕にとっての『ガンガンいこーぜ!』ってのは、そういう事だから。
「ミナ?ごめん悩ませちゃった?ごめんなさい…でも捨てないで?私は渚の次でもいいから…」
おっといかん。
茜に悲しい顔をさせてしまった。
でもそっか…茜はそんな風に考えていたのか…嬉しいな…。
「ううん。茜、実際昨日の途中まではさ、茜と縁を切るレベルでの決別を覚悟していたんだけど、最終的には茜に堕ちちゃって、今ではもうすっかり茜の虜。だから決別なんて考えられないよ?でも、渚との関係もあるから、今後の事は後でしっかり話し合お?二人を手に入れようとするクズい僕だけど、後悔はさせない。これからの僕を傍で見ててね?」
「ミナ…。うん分かった!あぁ…どうしよう今私すっごく幸せ!諦めないでよかったぁ…」
「強かったよね昨日の茜。あ、あかねちゃんね?」
「も、もうミナ!ヤメてってばー!」
「はいはい。わっ!見ろよこの茜のパンツ!びっしょびしょ!ビッチパンツはっけーん!」
「バッ!バカッ!返して!てかビッチゆーな!」
結局、僕はビッチパンツを返さなかった。
どうしても返したくなかった。
どうしてもだ。
だから代わりに、僕のパンツとユニフォーム交換する事を提案。
何故か嬉しそうに快諾する茜。
おやおや?
もしかしてあかねちゃん出てきた?
まぁ、どちらにせよ話の分かる子だ。
秋晴れの 朝日に煌めく ビッチパンツ
(字余り)
降り注ぐ朝日を見ながら、そんな句を共作した僕ら。
僕達ならやっていける。
そう確信した。
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