第17話 Love Fruit War
運命のいたずらか神々の戯れか、突如として僕の元へ降ってきた二つの恋。
美しく、可憐で、まるで果実を味わうが如く甘く、そして酸っぱい気持ちにさせる二人への想いを、僕は落としてしまわないよう大事に抱えた。
しかし何故だろうか、僕が大切にする想いとは裏腹に、出会った瞬間から睨み合い、反発し合うかのようにぶつかり合う二つの恋の実。
その様子ときたらさしずめ犬と猿の仲のよう…つーか虎と龍。
目の前に広がる火花散らす戦いの傍ら、僕はうんざりとしながら頬杖をつく。
はぁ…一回落としてやろうかな、この果実。
「ちょっと渚!」
「なによ」
え…何この怒気をはらんだ口調。
いきなり不穏な雲行き?
まだ席について2秒くらいなんだけど?
「なんで渚がミナの隣なワケ?おかしくない?10年以上そこは私の場所なの!どきなよ!」
先制パンチきたー
「はっ?過去じゃんそんなの。茜さ、あんた2番のクセに生意気なんだけど。まじウザい」
渚もキッツ…
あーあ、店員ビビって下がってったなー。
当然周りのお客さんもシーン。
「はぁぁ?誰が2番なの?!いい?私はずっとミナの側にいたの!ミナの事ならなんでも知ってんの!ポッと出のクセに!どっちが生意気なのよ!」
うん。もう無理だコレ。
血が出る前に止めたいけど…
タイミングむずいな…
「ポッと出とかふざけんな!私がどれだけ南君を想ってきたと思うの?10年以上も側にいてさ、ずっと告白も出来なかった雑魚と違って私は昨日勝ち取ったんだから!黙れよオマケ!」
オマケて…これが女神の怒りってやつ?
…恐ろしい。
「あー!ムカつくっ!!渚に何が分かるってゆーのよ!大事な、大事な関係だから怖かったんじゃない!でも勝ち取ったのは私も一緒!だから生意気でもオマケでもない!謝って!」
だよな。
その気持ちは分かるぞ?頑張ってくれたよな、茜。
「何で?!茜が最初に突っかかって来たんでしょ?まずそっちが謝ったら?」
あーあ。
「絶対嫌っ!たしかに最初はそうかもだけど、散々コケにされてさ、今さら謝れるワケないじゃん!」
泥試合だなこりゃ…
どこだ?どこで止める?
僕はレフェリーストップのタイミングをジッと計る。
「はぁ。じゃもーいーよ。一人で好きなだけ喚いてれば?私は南君とデート行くから」
え…マジ?茜放置?
「やだ…一緒に行くもん…」
『もん』て…やだ…かわいい…
あっ!間が出来た!渚にとっても今の茜の反応は予想外か?
よし、ここチャンス!
「茜!今のめちゃくちゃ可愛かった!抱きしめていい?(どうだ?茜の様子は…)」
「うん!へへ♡」
あ、嬉しそう!
イケる!
よし、ここから、ここからが大事!
頑張れ僕!バランサー南の腕の見せ所だ!
ギューッ
「ミナ♡」
「ちょっとぉ…」
渚、ちょっと待ってね?
余計な事言うなよ?我慢だよ?頼むよ?
そんな気持ちを込めた視線で渚を制す。
「茜、茜は生意気でもオマケでもないぞ?それにしても、最後よく言い返さなかったね。可愛いくてびっくりしちゃった。気に食わない気持ちも分かるけど、最後みたいな可愛い茜が僕は大好き。謝らなくてもいいから、始めちゃった罰として今日の隣は渚に譲ってあげて?ね?」
「うん!分かった!」
やだ…ほんとかわいい…
だって子供みたいに「 えっへへぇ 」って笑うんだもん…
…なんて抱きついたまま呆けていたら「ゴホンッ」と渚さん。
いけね。
ここで僕は渚に向き直る。
茜とは対象的に甘い雰囲気は出さず、上司が部下を
売り言葉に買い言葉とはいえ、茜を傷つける発言が多かった事は見過ごせない。
「さてと、渚。君には何も言わない。それくらいキツいこと結構言ってたよ。…だけど、電話で茜も受け入れると言ってくれたこと、凄く嬉しかった。それがなきゃ僕らの関係はもっと
「うん…ごめん。最初に仲良くって言ったのは私なのにね。茜もごめんね?積年の恨みってやつがさ、相対するとやっぱ出ちゃうみたい。こんなつもりじゃなかったのに…。でも、ふとしたきっかけでまた出ちゃうと思う。だから先に言っとく、ごめん。けど、これからは茜を置いていくような事は絶対言わない!茜、ライバルとして、親友として、これからは上手くやってこ?さっきは本当に、ごめんなさい」
と、一度頭を下げてから手を差し伸べる渚。
ええ子や…
「うん…。ありがとう…」
と、相変わらず涙脆い茜も手を握る。
僕の中ですっかり泣きキャラとなってしまった茜さん。
しかし、何だこの感動…ってアレレェ?僕も泣いてらぁ
「アハハハッさすが兄妹系幼馴染!泣き虫まで似るんだねー!ちょっと嫉妬ー」
「う、うるせーやい!て、店員さーん!お騒がせしてごめんなさーい!お客さん達もすいませーん!もう僕達はだいじょーぶでーす!あ、あとお水とおしぼり下さーい!特におしぼりー!」
慌ててお水とおしぼりを持って来てくれた店員さん。
そして拍手やら「よっ!青春ボーイ」とか「気にすんなー」って言ってくれるおっさんとかいた。
すぐ後ろのおばさん達は涙を流しながらアメくれた。
日本は平和だ。
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