第16話 新城家と須藤家 その実態

思考のダンジョン、その最下層にあると言われるカオスの森フロア。

右を見ても左を見てもハテナマークだらけのその森に、果敢にも単身で挑んだ南は思考の罠に囚われ一人彷徨い続けていた。


「ハァ…ハァ…ちくしょー…一体どうなってやがんだ…渚、君の事が全く分からねーぜ…」


息も絶え絶え、よもや生還は不可能かと思われたその時、体の内側より生理的欲求魔法『オシッコシターイ』が緊急発動、すかさず身近なトイレへと転移した南は脱出に成功、なんとか事なきを得たのであった。


ふぅ。危なかった。

結局渚のミステリアスな部分は解明出来ていないけど、物理的にスッキリしたらなんかどうでもよくなった。

だいたい、一人で考えてないで直接渚に聞いてみればいいもんね。ルンルン♪


こうしてありえない程のスピードではあるが、何故か渚のお許しが出た事で、茜・渚二股問題はひとまず解決となった。


三角関係及び女性二人が上手くやっていけるのか、といった問題は残るもののそれは今後の問題。

そう結論付けた僕は、晴れやかな心持ちのまま一階のリビングへ向かって階段を降りる…が、リビングから聞こえる興奮した母の声に思わず足が止まる。


「はぁ?!じゃーなに?南が二股掛けるってこと?何考えてんのあのバカ!呆れるわー」


…あん?


「だよね!まさかお兄ちゃんがそんな最低二股ヤリチンクズ野郎だとは思わなかったよ!ねーママ、私妹を辞めるよ!あいつは奴隷か何かと思うことにするよ!お菓子奴隷だよ!」


…言い過ぎ。つーか今と扱い変わらない件。


「アハハハッ!陽日ちゃんそれナイス!私も欲しい化粧品があるからミナ君に言っといて?…しっかし茜、あんたはそれでいーの?ママとパパは茜が幸せならどんな形でもいいから反対はしないけど」


…うん、いいね香菜さん分かってる。化粧品は任せな。


「おいっ!パパはまだ何も言っていないぜ?ハニー。だが茜、その渚って子はどんな子なんだい?おっぱいは大きいのかな?パパは大きいおっぱいの娘が増えるなら大賛成だ!小さくても…まー全く問題ないんだけどなっ!」


…マジ黙れよおっさん。


「おじさんもだぞ茜ちゃん!なぁ祐也君、今年の年越し合同旅行なんだけどな、渚ちゃんの家族も一緒に秘湯…なんてどうだろうか。混浴風呂がある旅館なんて…どーだろうか?!」


…いいぞ親父!見直した!


「和也君、君は天才か?!ちょっと待ってくれよ?今しらべ…」


…おっさん頼むぞ!


「ちょっとあんた達!何テンション上げちゃってんの?!ほんと…バカなんだから!だから南があんな風に育っちゃうんじゃない!だいたい、相手の親御さんの気持ちもあるでしょう?けど秘湯ね…いいわね…」


…今分かった、僕のちょろさはあんた似だ。


「私も興味ある。ねぇ裕也、泥パックとか出来るとこ探して?三十も後半になるとやっぱ肌がね…」


…うん、パックも買ってやる。


「私も泥パックしてみたい!それならお兄ちゃんの二股も許してもいいよ?混浴は許さないけど」


…お前最初から実はどーでも良かったんじゃねーの?とりあえず兄ディスりたかっただけじゃねーの?


「…なんだかなー。昨夜めっちゃ頑張って掴みとったミナとの新しい関係なんだけどなー。もっとこう…頑張ったねーとか、感動を分かち合いたかったのになー…。はぁ、この家族ってほんと…なんなんだろ…」


…それは同感だぞ、茜。


あーほんと、なにこの家族。

おじさんと香菜さんまで…いつの間に全員集合してたの?

しかもガンガン話進んでるし…。

茜め、二股の件をさっそくリークしやがって。

しかし…混浴かー…女子大生とか…いるのかな…

ハッ!いかん!

つーか主役は僕だよ?

主役を差し置いて何和気あいあいとしてんだよ!

ちょっと寂しーじゃないか!

てことで、いざ出陣!


「ぼ、僕も混浴に1票!」


「ちょっ!ミナ!私がいるでしょ?!毎日混浴してあげるから!そんな事言わないの!」


「「「「「ヒューヒュー」」」」」


「茜…そーゆうの嬉しい…デヘヘ♡」


「「「「「キモっ」」」」」


家族総出で僕をイジりつつも、二股にはさして反対はなく、「家族が増える」とむしろはしゃいでいた (特におっさん二人)。

こんなに歓迎ムードなら、さっそく今日お披露目でもいいかもしれない。


ま、それはいいとして、茜と渚…僕が知る限りでは犬猿の仲の二人。

その理由が僕の取り合いって言うね、知らない所でモテる男は辛いよ状態だった訳ですが、はたしてこの二人、仲良く出来るのだろうか。


身を持って知った二人の女神と女悪魔な性質。

伝説や伝承において決して相容れぬ存在の2柱。

今日開かれる会合が、どうかラグナロクとならんことを祈るばかりだ。

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