第5話 須藤 茜は明日を夢見る
スーーッ ハーーッ
スーーッ ハーーッ
ふぅ………まだドキドキしてる……
でも、少しは落ち着いたかな…
河川敷からの帰り、ミナからしてみれば凄く変な空気のままでとうとう家に着いてしまった。
だから、これ以上ミナに心配かけないように、せめてもの思いで必死にいつもの顔を装ってバイバイした私は、玄関に入った途端に慌てて深呼吸をした。
慌てて深呼吸をする、ってのも何か矛盾している気がするけれど、さっきミナの未来予想図を聞いてからずっと興奮状態だった私にはどうしても必要な処置だった。
だって、あのままじゃドキドキしすぎてきっと死んでしまうもの。
それにしても最後、ちゃんと笑えてたかな…
気持ち悪い顔してなかったかな…
きっと暗かったから大丈夫だよ…ね?
街灯点いてなかったのがせめてもの救いだったよね…
はぁ…まだ暖かいなぁ右手……
っていけない!また顔が緩んできちゃう!
スーーッ ハーーッ
念の為もう一度深呼吸をした。
すると、キッチンからママの「おかえりー」が聞こえてくる。
それに控えめに「ただいま」をした私、一目散に私の部屋へと駆け込んだ。
背後から「手洗いー」とか聞こえてきたけれど、ごめんママ、今それどころじゃないの!
私は部屋に入るなりベッドにダイブ。
枕に顔を埋めて足をバタつかせる。
ミ、ミナが私をお、お、奥さんって言った!
綺麗だとも、大好き以上だとも言った!
そして……私の事を考えながら涙を流してくれた!!
どどどどどーしよっ!!
う、嬉しい嬉しい嬉しい!!
何か、恋人とは思えない…とか、私に彼氏が出来た事をいい笑顔で祝福したりしちゃってたけど、そんな些細なこと今はどーだっていい!
だって、だって、け、結婚して、こ、子供も、わ、ワンちゃんもいるんだって!!
ニコニコした私が隣にいて、楽しい食卓を囲んでいるんだって!!
まさかミナがそんな事言ってくれるなんて!!
こんなに…こんなに幸せな事ってあるの?!
ミナがそんな風に私との未来を考えてくれていたなんて…
凄いよ……こんなに嬉しい事なんてないよ…
うぅ…う…嬉しくて涙が止まらない…
はぁ……
……でもな………私…ミナを泣かせてしまったんだよね…
ミナが私を想って泣いてくれたこと、凄く嬉しい。
いや、死ぬほど嬉しい。
でも、私としてはちょっとしたドッキリのつもりだったし、ミナから何らかのリアクションがあれば、タイミングをみて「嘘だよー!」って軽く済ませるつもりだった。
それが、ミナってば唖然と私を見つめたかと思えばそのまま黙り込んじゃって…
なんか空気が重くなっちゃって、私もネタバラしのタイミングを見失っちゃって…
そしたら、いつの間にかミナが泣いてて…
私的にはちょっとだけ落ち込んでくれるだけでも大満足だったのに、まさかあんなに考えてくれて、涙まで見せてくれるとは思わなくて…
申し訳無いこと…しちゃったな……
それに、『覚悟した横顔』とかミナは言っていたけれど、あれはただ単に夕日が眩しかったのと、罪悪感でミナの顔が見れなかったってだけでさ…
そんな変な勘違いまでさせてしまったし、とにかく帰り道では謝りたい気持ちでいっぱいだった。
でも、無理だった……
だって、だってあんな言葉を聞いちゃったんだよ?
だから…だから嬉し過ぎてニヤニヤがずっと止まらなかったんだもん!!
凄く私の事を考えてくれて、嬉しい言葉も沢山くれて、涙まで見せてくれたミナに、ニヤけきった顔を見せながらヘラヘラ謝るなんて……失礼過ぎて…出来ないもん…
あとね、私は男として好きだよって、誰よりも何よりも好きだよって。
私はキスもエッチもしたいよって、何万回だってしたいよって。
叫んででも言いたかった。
でもまずはちゃんと謝らないといけないから…
下を向いてニヤけ顔を見られないようにする事しか出来なかったんだ…
ごめんなさいミナ…ごめんなさい…
こうして、謝罪とニヤニヤを繰り返しながらベッドにうっぷして過ごすこと約一時間、ようやく申し訳なさと嬉しさが混じった涙が落ち着いた私は、早々にご飯とお風呂を済ませて自室の机に向かう。
食事中、ママとどんな会話をしていたのかさっぱり覚えていない。
だって、私はこれから書くミナへの手紙の事で頭が一杯だったのだから。
何回かピコピコと鳴る通知音には気付いていたけれど、友達や陽日から届いたラインに目を通す余裕もなかった。
…書けた。
私の思いの丈をぶつけたお手紙。
つまり、ラブレター。
謝罪とお礼が一割、あとは愛の言葉が詰まった手紙は気がつけば凄い枚数になってしまった。
封筒がパンパン…になったやつが3通。
正直やり過ぎた感はある。
けどいいの。
何故なら明日から私はミナと幼馴染は辞めるから。
このラブレターを機に、私達の関係を恋人 兼 婚約者にグレードアップさせるの。
たとえ、それを彼が渋ったとしてももう関係ない。
私は引くつもりはない。
だって先にプロポーズしてくれたのはミナだもん。
彼はそんなつもりで言ったわけでは無いだろうけれど、聞いた私がそう受け取ったんだもん。
覚悟してよ?ミナ。
絶対私はミナの可愛いお嫁さんになるんだからね?
ふふふ♡
あ、もうこんな時間。
気づけば2時を過ぎていた。
どうやら集中し過ぎたようだ。
アハハ、陽日と2ママ(2番目のママの意。ミナと陽日の母をこう呼んでいる。ちなみにミナ達の父はおじさんと呼んでいる)から彼氏の写真見せろってラインが来てた。
写真もなにも、二人とも毎日顔を合わせてますよーってね♪
ふふっ明日のネタバラしが楽しみだな♪
…あ、消えてる。
時間的に、さすがにミナの部屋の電気は消えていた。
……今日いつもの「おやすみ」なかったな…
ま、ゲームに夢中になって忘れる事もあるし…別に毎日なワケでもないし…
大丈夫……だよね?
何かソワソワしちゃうけど…
起こすのも悪いし…
うん。私も寝よう。
明日起こしに行って、まずは謝って、そして放課後には手紙を渡してその場で読んでもらうの…
そのままデートして…もしかしてキスしちゃったり…それから……デュフフフフフ♡
はぁ♡
では、おやすみなさい…あなた♡
ふふっ♡
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