返したい
『恋人とか、いないのか?』
みづきさんが聞いてきた。
「こ、恋人とかいませんよ。好きな人は、いる、けど」
『告白して、つきあってもらえばいいじゃないか』
「そんな、無理ですよ」
『最初から、無理と決めることもないだろう。その相手が、もう結婚しているというのなら話は別だが』
「結婚は、してないと思うけど」
『だったら、問題はないじゃないか』
「いやいやいや。確か彼女さんがいるはずだし」
『そうか。それは、確かに今は無理そうだな』
「でしょ?」
これが私の友だちだったら、“獲っちゃえ!”くらい平気で言いそう。
みづきさんが固い人でよかった
ふと、思いついたので聞いてみた。
「でも、なんでブローチは枯れた木の下から出てきたんでしょうね?」
しばらく間があって、みづきさんが答えてくれた。
『想像でしかないが、飛んだか飛ばされたブローチが、木の枝のどこかに挟まったのだろう。それも思いのほか、しっかりと。そのあと枯れて切り倒されて、あの場所にまとめておかれている時に、風雨にさらされて下に落ちたのではないかな……枯木として燃やされていなかったのも幸いだな』
あ……枯れてたということは、そういう可能性もあったんだ。
よかった、ほんとに燃やされてなくてよかった。
だけど。
「そうですよね。そうかも。でも枯れてくれたおかげ?で見つかったんですよね。そういう意味では、枯れてくれてありがとう?それも変だけど」
私は手にしたブローチをしげしげと眺めた。
「ほんとに、綺麗……。でも、これ、どうしたらいいですか?」
『どうするとは?』
「えっと、なんていったらいいか。このブローチ、みづきさんのご家族とかに返した方がいいですよね?あの、あれ、なんだっけ」
『遺品か?』
「そう!それになるでしょう?だから、ご家族とかに渡したがいいのかな?って思ったんだけど」
『一般的にはそうだが。どう、説明するつもりだ?あの当時すぐなら、関連づけることもできたかもしれないが、三十年経っているんだ。それにお前とわたしとの関係はどう言い訳する?』
「あうう。ゆ、夢枕に立ったとか?」
『もっと、うさん臭いぞ。おまえが持っていても、私は構わないが』
「ええっ!私が持ってるってことは、私が貰っちゃうってこと?いやいや、そんなわけにはいかないっしょ」
『気に入らないか?』
「違う違う、むしろ逆!すっごくかわいいし、綺麗で素敵なんだけど。私がつけるとかもったいないし、おそれおおいし」
『そんなことはないと思うが。どっちにせよ、わたしにはもうつけることはできないし』
みづきさんの言葉が、寂しそうだった。
「あ、あのね、思いついたんだけど。私がつけたらみづきさんも間接的にブローチをつけてることになりますよね?だったら、つけてみようかな」
私は、素敵に見える場所をみづきさんに教わりながら、上着の襟にブローチをとめた。
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