探索開始

 「ここ、なんですか?」

『ああ。山の入り口にバス停があるんだ。隣に自動販売機があって、そこに奴は隠れていたらしい。わたしが通り過ぎたあとに後ろからついてきて、気づいたわたしが走って逃げようとするのを追いかけて、というわけだ』

みづきさん、他人事みたいに話すけど、イヤな思い出だろうに大丈夫かな?というか、ここらあたりが“殺人事件の現場”ってことよね。

『事件の現場は、こわいか?』

「少し」

『何も出ないぞ?』

「いや、なんとなく」

『出そうなモノは、お前の中にいるが?』

……そうでした。


 「それで、走ったときに落としちゃたんですか?ブローチ」

『落としたというか、飛んだといったほうが正しいかな。着ていたジャケットにつけていたんだが、奴ともみあった時に、はずみで飛んで行ったんだ。目の端にキラッと光るものが見えたのを覚えている。もしかしたら、奴が引きちぎって投げ捨てたのかもしれないが』

「どっちのほうに飛んだかとか、憶えてます?」

『それが、よく憶えてないんだ』

答えてもらって気がついた。

襲われて、もみあってたんだもの。

方向とか、憶えてるほうがおかしいよね。

「とりあえず、この周囲から探してみましょうか」

『頼む』

 

 探すといっても……道の真ん中にずっと落ちているはずはないし、側溝はないし。

というか、下に落ちてるなら、もうとっくに拾われているわけで。

木の上とか、屋根とか上のほうを見てまわった。

バス停まで戻って、みづきさんに聞きながら行動を再現してもみた……走りはしなかったけど。

塀に囲まれた民家は数軒あるけれど、中までは入れないし。

二~三往復しただろうか。

見られるところは全部見たと思う。

(これだけ探しても見つからないってことは、とっくに拾われちゃっているよね。交番に行っても、説明できないし。落としたのはいつ?三十年前ですって……ふざけるなと怒られるのがオチだよね)

 

 「みづきさん。このあたりも、変わってるんですか?」

ふと気になったので聞いてみた。

『まあ、変わっているといえば変わっているかな』

「じゃあ、あまり変化なし?」

『家は、ほとんど変わってないな』

「ウチのほうが変わってました?」

『ああ。ここは当時とあまり変わってない。バス停も、あの木も』

「どの木ですか?」

『右側に家があるだろう?ブロック塀で囲われた瓦屋根の家』

「ああ、わかります」

みづきさんが言う家を特定する。

『あの塀の向こう側の空き地に生えている桜の木。あれは昔からずっと……』

みづきさんの言葉が、途中で止まった。

『……なぜ、大きさが変わってないんだ?』

確かに。

三十年も経っているのに、なぜ?



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